グレッグミンスター城で、コウはリュウカンに診てもらうことができた。
「少し毒に当てられておったようだが、なに、薬を飲んで一日安静にしておればすぐに良くなりますぞ」
リュウカンの言葉に、一行は胸を撫で下ろした。
「……しかし、残念です、ルキア殿」
レパント大統領は溜め息を吐きながら言った。リュウカンの診察を待つ間、レパントはずっとルキアに大統領の座を譲りたい、と説得を続けていた。だが、ルキアは頑なにそれを拒み、最後には妻のアイリーンにたしなめられてレパントはようやく諦めたのである。
「ですが、ルキア殿。今宵、ささやかながら開かせていただく宴には、ぜひご出席ください。皆もあなたに会いたがっています」
「わかったよ」
これにはルキアも快諾した。
宴の時間まで、ルキアは城下町を散策して過ごした。懐かしい顔に会うたびに、泣かれたり怒られたりしながら暖かく迎え入れてもらって、なんだかくすぐったい気持ちだった。
マクドール家の屋敷は昔のままに残っていた。家宰や使用人たちも変わらず働いており、そして彼らをクレオがまとめていた。
「おかえりなさい、坊ちゃん」
うっすらと目に涙を浮かべて、クレオは優しく出迎えてくれた。
「ただいま、クレオ」
ゆるりと抱きしめて左右交互に頬を触れあわせる。昔はこれをすると照れくさいのか嫌がられたが、今日は笑顔で返してくれた。
「坊ちゃん。此処が、坊ちゃんが生まれ育ったいつか帰る『家』です。それだけは忘れないでください。坊ちゃんがお留守の間は、このクレオがお守りいたします」
「ありがとう、クレオ………」
解放軍元帥の帰還と、都市同盟のリーダーの来訪を歓迎する宴が始まった。
「やぁ、ゴクウ。楽しんでるかい?」
「もちろんさ、ルキア」
昼間のうちに、交易商人のゴードンを仲間にすることができたゴクウは上機嫌である。
「……顔が赤いよ。もしかして、酒を飲んだのか?」
「ちょっとだけだよ〜。ルキアだって、飲んでるだろう?」
そう言いつつも、少し呂律がまわっていない。片手に持っているグラスの中身は、どうもアルコールのようである。
「ほどほどにしておきなよ」
「うん」
ゴクウと別れたルキアは、酔いを醒ますためにバルコニーへ出た。酒はそれほど飲んでいなかったが、久しぶりの人混みに酔ってしまった。
「……あれ、ルックじゃないか……」
広いバルコニーにはすでに先客がいた。ワインの瓶とグラスをちゃっかり持ってきて、ルックが一人で飲んでいる。
「ルキア」
室内の灯りを避けるようにして、ルックは手すりにもたれていた。ルキアはその隣に並ぶ。
「飲む?」
「遠慮しておくよ。酔い醒ましに出てきたんだから」
「そう……」
つまらなさそうにルックは自分のグラスを一息で空けると、グイとルキアに突き出した。
「じゃあ、お酌してよ」
「良いよ」
ルキアは苦笑して、グラスにワインを注いでやる。
「………ルキア………」
「なに?」
「…………。良い、なんでもない……」
ルックはワインを一口飲んだ。言葉とは裏腹に、なにか言いたそうである。ルックのひねくれっぷりはよく理解しているルキアは、少し微笑んで言った。
「……ルック、抱きしめても良い?」
夜目にもルックの顔が紅潮したのがわかった。
「………昔はそんなこと、訊いたことなかったくせに」
「そうだったかな……?」
返事も聞かずにルキアが優しく抱きこむと、ギュッと力をこめてルックは抱き返した。
「会いたかった」
ルキアの肩に顔を埋めてルックは言った。
「うん」
「でも、みんなが君に会いに行こうとしたあの時、やっぱり僕は止めるべきだったかもしれない」
「どうして?」
「君が哀しむのがわかっていたから。こんな哀しい笑顔をさせるくらいなら、会うべきじゃなかったんだ……!」
顔を上げたルックに、ルキアは優しく微笑む。
「そんなことはないよ。確かにこんなことでもなかったら、グレッグミンスターへはきっと二度と足を踏み入れることはなかっただろうな。でも、私は『家』というものが、あんなにも心安らぐところだったとは思ってもいなかった。だから、帰ってきて良かったと思ってるし、みんなにも再会できたことは嬉しいよ」
「………本当に……?」
「本当に」
「僕に会えたことも?」
「もちろん」
ルックの頬に触れ、ルキアは何処かもの哀しげに微笑んだ。胸が締めつけられて、ルックの眉間に皺がよる。ふっと表情を和らげて、ルキアはもみほぐすようにルックの眉間を押した。
「痛い……」
しかめ面で文句を言えば、ルキアはあまり悪びれた様子もなく謝る。
「ごめん……そんな顔させて」
「……あんまり反省してないよね」
悪戯っぽくルキアは笑う。
「………まだ、この呪いに耐性ついてないのも事実だから。でも、こればっかりは私が何処かで折りあいつけなきゃいけないものだし、たまに落ちこんだ顔をしても気にしなくて良いんだよ。お前だって、いろいろ大変だろう……?」
ギクリとルックの身体が強ばる。ルキアはなだめるように背を撫でた。
「………いつから、あの村にいたの?」
「ん〜、幻影軍とトランが同盟結んだ頃、かな」
ルックの顔が跳ね上がった。
「そんな、前から………」
ルキアはばつが悪そうに頬をかく。
「一族郎党を率いている身としましては、おかげでやらなきゃいけないことが山のようにできたんですよ、気楽な放浪者だったのに」
とってつけたような敬語は、言い訳半分、抗議半分といったところだろうか。
「で、どうせ傍観するなら近くでって思ったわけ」
そして、表情が真剣なものに改まる。
「お前が一等つらいときに側にいてやれなくてごめん。あの時は、さすがに飛んでいこうかと思った」
「ルキア………」
ルックはもうその言葉だけで充分な気がした。まるですべてを断ち切るかのように黙って行ってしまったルキアが、それでもこんなに自分のことを気にかけてくれていた。
首にまわっていた腕に力がこめられて、ルキアはそれに逆らわずに額に、目許に、頬にと愛おしく口づけを落とした。唇にも軽くついばむように口づける。
明日には戻らなければならない我が身を恨めしく思いながら、ルックはルキアを見上げた。
「ルキア、明日になったらもう言う機会はないだろうから、いまのうちに言っておく。……また、必ず会いに行くよ……」
「うん、待ってる……」
「君がたとえ地の果てにいたって、僕の風の魔法なら一瞬なんだから。…………それから、あの時くれなかった、約束をくれる……?」
他の誰も見ることのできないルックの甘えた表情に、ルキアは嬉しそうに目を細めてささやく。
「良いよ。どんな約束が欲しい?」
「…………いつか、僕に会いにきて………」
ルックはきつくきつくルキアを抱きしめる。ルキアもそれに応えるように、強く抱き返した。
「……うん、約束する。いつか、きっとね………」
「じゃあ、僕はもう休むから」
「……ん、おやすみ、ルック……」
少し長めのキスを二人は交わした。
宴がお開きになったのは、まだ宵の口だった。飲み足りない、と城下町の酒場へ移動する者たちもいて、マリーの経営する宿屋兼酒場は大変な賑わいを見せていた。約一名を除いて。
「よぉ〜、フリック、なに暗い顔してんだよ!」
酒臭い息を吹きかけて、ビクトールがフリックの背中を勢いよく叩いた。
「いってぇな、酔っぱらいが……!!」
空になっていたジョッキで、フリックは叩き返す。
「なんで、こんなところで一人で飲んでんだよ」
酒場の隅のテーブルで、フリックは一人で飲んでいた。ビクトールもワインの瓶とグラスを手にして同じテーブルにすわる。
「良いだろ、何処で飲んでたって。俺の勝手だ」
「ふぅん。………お前、あんまりルキアと話さなかったな」
フリックの身体が強張る。その問いには答えず、麦酒の入ったピッチャーに手を伸ばした。それを、横からビクトールが取り上げる。
「ビクトール……!」
「俺の質問に答えたら注いでやる」
すっかりできあがっているものと思っていたが、ビクトールの眼光は鋭かった。
「………どっちかって言うと、俺こそお前に訊きたい」
「ん?」
グラスに口をつけながら横目にフリックを見ると、思い悩んだ表情で睨みつけている。
「どうやったらお前みたいにルキアと普通に話せるんだ?」
「………また、小難しいこと考えてるみたいだなぁ……」
「う、うるさい!」
やれやれと呆れたように溜め息を吐いて、ビクトールはフリックのジョッキに麦酒を注いでやった。
「昔みたいに話すことが、そんなに難しいことか? お前とルキアの仲だろ。ルキアも別にお前には変な態度も取ってなかったぜ?」
「……俺には……?」
引っかかった言葉を繰り返すと、やっべ、とビクトールは口許を覆った。相手は何処か上の空だと思って口をついて出た失言だった。
「ルキアが、誰かを避けてたって言うのか?」
だが、上の空なのは間違いないようで、肝心の答えがわかっていない。答えるべきか誤魔化すべきか悩んでいると、フリックは軽く目を見ひらいた。
「………カスミか?」
「ま、消去法で簡単に答えは出るわなぁ……」
自分には普通だったと言ったのはビクトール。その彼もフリックの目から見れば羨ましいほどにルキアと変わりなく接していた。ルックはもとが無愛想過ぎるのでわかりにくいのだが、「誓え」と迫ったのは彼自身で、なおかつルキアに最も近い立場にいることはフリックも知っている。知りあったばかりのゴクウは論外だろう。
「昔から確かに美少女だったが、さらに磨きがかかった佳い女になってるしなぁ。ルキアならずともグラグラくるだろ」
「下世話な言い方するなよ……」
「お上品に言ったって同じだろ」
呆れるフリックをビクトールは笑い飛ばす。クイッとグラスを空けると、真顔になって話を戻した。
「………そしてあいつは、世にも厄介な紋章を宿している。カスミはルキアと再会できたことに舞い上がってるみたいで、そこまで気づいてないようだったがな」
そして、じろりとフリックを見やる。
「それを思えば、お前が普通に喋ることもできないなんて、情けなさ過ぎやしないか?」
「まったくだ………」
だがフリックは、三年前と少しも変わらぬルキアを見て、自分が思った以上にショックを受けていることを自覚した。“27の真の紋章”の継承者の身になにが起こるのか、知識として聞いてはいたものの、それをいざ目の当たりにしてどうしたら良いのかわからなくなってしまった。いったいどんな顔をすれば良いのか、なんと言葉をかけてやれば良いのか、わからなくなってしまったのである。
「…………阿呆か、お前は……」
フリックの述懐を、ビクトールは一言で切り捨てた。
「……お前にだけは言われたくなかったな……」
いつもなら怒鳴り返しているところだったが、いまはその気力もない。
こりゃ、重傷だな、とビクトールは溜め息を吐いた。
「お前、バナーの峠のグレミオの言葉、ちゃんと聞いてたか?」
「なんか言ってたか?」
「………生まれ故郷を出ていったわけ、あの村に滞在していたわけ。紋章のせいもあったが、俺たちのことも気にしてたって言っただろうが」
「……そうだったか…………」
「そうだよ。……いいか、グレミオは俺たちを一括りにしたが、ルキアにしてみれば俺はオマケで、本当に気にかけてるのはお前だよ!」
ビシッと指を突きつけられたフリックは、この言葉を理解するのにかなりの時間がかかった。
「あぁ〜! ったく、お前って、ほんと鈍いのな。お前が最後に行方不明になっちまうから、ルキアはお前を心配したんだって言ってるんだ」
「…………。行方不明扱いされたのは、全部、お前のせいだろうが!」
フリックに胸ぐらをつかまれて、ビクトールはニヤリと笑った。
「やっとお前らしくなったじゃないか」
ムッとしてフリックはビクトールを突き放した。
「深く考えすぎなんだよ。いつものお前で良いんだから。そのために、ルックはあんなこと誓わせたんだぜ」
「……わかってる」
「だったら、さっさと会いに行ってこいよ。俺たち、明日には戻るんだ」
「言われなくとも」
フリックは走って酒場を出ていった。
「…………あぁ、振られちまった………」
「そのわりには嬉しそうではないか」
珍しく星辰剣が口を挟む。
「だって、俺、二人とも好きだもん」
星辰剣はやれやれと溜め息を吐いたようだった。
夜もかなり更けてきたが、出迎えた家宰は嫌な顔一つせずにフリックを通してくれた。
ルキアの部屋の前に立って、フリックは少し躊躇する。深呼吸してから、扉をノックした。
「フリック? どうぞ」
家人から先触れが行っていたのだろう、中から返事がある。
「……よぉ、ルキア」
部屋に入って軽く挨拶したが、いままでの素っ気ない態度もあって、ルキアを見るのが照れくさい。
「いらっしゃい、すわって」
「あ、あぁ……」
二人はソファに向かいあってすわった。
「………元気だったか?」
「うん……。フリックは?」
「俺も元気だったよ」
本当に久しぶりに、フリックはルキアの顔を見つめた。三年前と少しも変わるところはなかったが、ただ、その瞳の色と浮かぶ笑顔、静かな語り口が、過ぎ去った年月を思わせた。
(こんな、もの哀しい表情をするようになったのか………)
フリックは胸が締めつけられる思いだった。
「………あの時の怪我は、大丈夫だったのか?」
「え……あぁ、あんなの掠り傷さ」
崩れ始めた城から脱出する際、ルキアの代わりに受けた矢傷。実際、完治するのに時間はかかったのだが、ルキアを失うことに比べれば、本当に掠り傷だった。
「……じゃあ……どうして………」
うつむいて呟かれた言葉を、フリックは聞き取れなかった。
「え?」
「……じゃあ、どうして、戻ってきてくれなかったんだ……!」
「………ルキア……」
フリックはルキアの隣に腰を下ろした。
「ルキア、すまない……」
「許さない……! どれだけ、どれだけ心配したか……!」
フリックはルキアを抱きしめた。フリックの胸の中で、ルキアははらはらと涙を零した。
「“ソウルイーター”が、また私の大事な人の魂を奪ったのかと思って、気が狂いそうだった。だけど、紋章が反応してないことにようやく気がついて、何処かで生きてるんだって、自分自身を納得させたんだからな」
「悪かった。……その、言い訳するつもりじゃないんだが、ビクトールが事後処理をするって言ったんで任せてしまったんだ」
「…………。あちこち、いろんなところを旅したよ。割り切ってたけど、やっぱりつらかったから、トランから遠いところばかり」
フリックは抱きしめる腕に力をこめた。
「三年経って、都市同盟とハイランドの戦争の噂を聞いて、その噂の中にフリックの名前もあったんだ。………いても立ってもいられなかった。でも、やっぱり、変わらない私が、変わっていくみんなに会うのは哀しかった………」
「ルキア……」
「………だから、あの村から動けなくなってしまった。きっと、あの時、会わなかったら、また別の国へ行ってしまってたと思う」
「………すれ違いにならなくて良かった」
「ほんとにそう思ってるのか?」
子供のように頬をふくらませて、ルキアはフリックを見上げた。
「思ってるって……! 俺たちのことは連絡が行ってるものだと思ってたし、怪我が治って……落ち着いて、お前に会いたいって思ったときには、とっくにお前は出奔したあとだったし」
すでにもうすれ違いを繰り返してたのだとわかって、二人は同時に吹き出した。
「ビクトールにはもうちょっとガツンと言っておくべきだったな」
昔のように笑いあうことができて、フリックはホッとした。
緊張の糸が切れるとアルコールもまわってきたのか、自然と眠気が降りてきてあくびをかみ殺す。
「良かった、お前とゆっくり話ができて」
「眠そうだね」
「あぁ、安心したら眠くなってきた。このまま泊めてくれ」
マントや手袋を外しだしたフリックに、ちょっと困ったようにルキアは言う。
「熊の寝床が欲しいとこなんだけど」
「…………」
熊が誰を指すのか、寝床がどう意味なのか、フリックはしばらく思い出せなかった。
「お前、まだその癖、抜けてないのか……」
やがて思い至って、フリックは盛大に溜め息を吐いた。
「うん、何故かね……」
ルキアは苦笑するが、あまり悪びれた様子もない。フリックは寝る準備を再開した。
「お前のベッドがいくらキングサイズだからって、男三人で寝るなんて、俺はヤだぜ。この分なら俺はすぐ寝つくし、朝寝坊するくらいにぐっすり眠れる自信もあるから、今日は俺だけで我慢しろ」
「なに、その自信」
クスクスとルキアは笑う。それをわしゃわしゃと頭を撫でることで黙らせて、フリックはベッドに倒れこむ。
小さな手燭を残して、ルキアは部屋の灯りを消した。サイドテーブルに手燭を置くと、フリックが場所を空けるように奥へ身体をずらす。にこりと笑って手燭を吹き消し、ルキアはフリックの隣に潜りこんだ。
「おやすみ、ルキア」
「おやすみ」
腕枕をしてゆるく抱きこんだフリックに、嬉しそうにルキアは身体を寄せる。
規則正しい心音に、やがて寝息も加わった。
久しぶりに聞くその音に、ルキアは安堵の息を吐いて眼を閉じた。
翌朝、すっかり良くなったコウと一緒に、ゴクウたちはバナーの村へ戻った。グレミオとルキアもそれに同行した。
コウは、二人の英雄に会えたことを自慢するんだ、と母親のもとへ駆けていった。
「ゴクウ君、あなたならみんなとともに目指したものをつかみ取れますよ。あなたの瞳には、坊ちゃんと同じ希望の光が宿ってますから」
「ありがとう、グレミオさん」
「私たちはしばらく、グレッグミンスターの家にいるから。もしまた来ることがあったら、家にも寄ってくれ」
「うん、もちろん。きっと、また行くね」
「その時は、俺もついて行くからな。ルキア、また一緒に飲もうぜ」
ビクトールの言葉に、グレミオが慌てる。
「ダメですよ。ビクトールさんと坊ちゃんが一緒に飲んだら、酒代がいくらあっても足りません」
「固いこと言うなよ、グレミオ」
「ダメです」
「………また会いに行くよ、ルキア。ゴクウのお供でも良いし、暇があったら一人で行くかな」
「待ってるよ、フリック」
ルキアは嬉しそうに笑った。
「……ルキア様、私も会いに行ってよろしいですか?」
控えめに、だが強い意志を持ってカスミは訊いた。
「もちろん。カスミも会いにきて」
「ありがとうございます」
笑顔で、カスミは深々と頭を下げた。そんな二人の様子を、フリックとビクトールは複雑な心境で見つめていた。
「………じゃあね、ルキア」
ルックは素っ気なく別れを告げる。
「なんだぁ、ルック、それだけか?」
「ルックとは、昨夜のうちにすませたからね」
意味深に笑うルキア。ルックはそっぽを向いていた。
「………坊ちゃん、そろそろ帰りましょうか」
「うん。…………それじゃあ……」
名残惜しいが、いつまでも止まってはいられない。
「ルキア、またね!!」
大きく手を振って、ゴクウは言った。山道を進みながら、ルキアも手を振り返す。ゴクウたちは二人の姿が見えなくなるまで、そこに立ち尽くしていた。
「…………じゃあ、僕たちも帰ろうか」
「そうだな、リーダー」
船着き場へ向かいながら、フリックはもう一度トランの方向を振り返る。
離れていても、通じる想いはある。いまは、このリーダーのために全力を尽くそう、とフリックは思いを新たにした。
END
復刊させるのにかなりの時間がかかってしまいましたが、この話が私の記念すべき幻水SS第一作だったりします。昔のあとがき見たら、日付が2000年になってました(爆)
ゲームをプレイした当初、私はフリックが一等好きで、その勢いのままにこの話を書いたのですが、サイト運営をするようになり、さらに話を書き続けるうちに私の愛情ベクトルはガッツリ坊ちゃんへ向けられるようになってました。この話と以後書いた話がかなりの齟齬を来すようになり、何度か改訂を繰り返していました。それでも、当初のフリ坊ルク風味はなかなか消せなくて悩んでるうちにサイトは一度閉鎖。
今回、復刊するに辺り最初から書き直してしまうことにしました。英雄イベントがベースなのはそのままに、フリ坊風味はかなり健全方向へ修正しています。うん、まぁ、別にヤッてても良いんだけど(ゎ
ルキアはフリックのことが確かに好きだけど、抱きたい抱かれたいの好きとちょっと違うっぽいっていうのが、いまの私の中ではスッキリと収まるんですよね。間にオデッサがいるからかなぁ。
なので、ルキアとフリックの話はまだ他にもいくつかあるのですが、えっちぃようで健全風味なのでご了承ください(笑)
ルキアの『一族郎党』のことと『癖』については、それぞれ別の話でアップ済みデス。
ちなみに、タイトルは百人一首から。このタイトルも変えるべきか悩んだのですが、タイトル付けのセンスのない私はもうなにも思い浮かびませんでした(≧△≦)
|