紋章に魅入られた子供たち

光を映す者 篇




 シエラは、目を覚ました。眠りの底から急浮上するように覚醒した。寝起きは最悪と言って良い彼女には珍しいことである。
 ベッドから起き上がり、カーテンを開けると、外はまだ夕暮れ前。庭を駆ける子供たち、忙しそうに立ち行く商人、警備に見まわる兵士たち。梁山(リアンシャン)城は、今日も喧噪の中にあった。
 紋章の力で陽の光が平気なシエラにとってもまだ眠い時間のはずなのだが、眠気の欠片もない。むしろ、頭は冴え、気分が高揚している。
「春は眠いものだと思うたが………」
 そう呟いて身支度を整えると、シエラは部屋を出た。

 ビクトールは、今日は非番だった。午後になって、研ぎに出していた星辰剣が戻ってきたので、ついでとばかりに防具や備品の手入れをする。
 一段落ついて伸びをしながら窓から外を見下ろすと、一組のカップルが目に入った。シエラとクラウスである。
「……もう起きてるとは、珍しいこともあるもんだ」
 窓枠に頬杖をついて、ビクトールは呟いた。
 見た目が十六頃の少女と二十歳になろうかという青年は、実にお似合いのカップルに見えた。少女は実際は齢八百年を越え、“27の真の紋章”の継承者、しかも吸血鬼なのだが。
 シエラは、クラウスの前では普通の少女を演じ続けている。いまも、クラウスの隣を近づきすぎず離れすぎない位置を保ち、ほんのり頬を染め、可愛い微笑を絶やさない。
「…………」
 ビクトールは胸にわき上がる気持ちを振り払うかのように、窓に背を向けた。手が無意識のうちに、左の首筋を押さえる。目眩ましの術がかけてあるが、そこにはシエラのつけた赤い咬み跡がある。
「………所詮、俺とは、ギヴアンドテイクの関係だろ………」



 ティント市国での出会い以来、シエラはビクトールの血を飲む。ただ、シエラがビクトールの部屋をおとなうのは稀なことで、もっぱら、ビクトールが話し相手欲しさにシエラの部屋へ行っていた。
 初めてシエラを抱いたのも、そんなどうにもやり切れない想いを抱えた夜だった。強烈な雷の魔法を喰らう覚悟だったが、シエラはなにも言わずにビクトールを受け入れた。
「………手痛いしっぺ返しでもされるのかと思った」
「そうして欲しかったのかえ……?」
 からかうような口調だったが、思いがけないくらいに優しい笑顔で言われた。その優しさが愛おしくて、奥底に疼く傷が癒されるようで、ビクトールはシエラを強く抱きしめたのだった。



 所詮、自分はシエラにとって補給要員でしかなくても、人よりは多くを理解していると自負がある。だから、クラウスの前のシエラは偽りだとわかっていても、自分には決して見せない姿を見るのはあまり良い気分ではなかった。
「…………嫉妬するような歳かよ……」
 パンパンと自分の頬を叩いて活を入れ、ビクトールは散らかった部屋を片づけ始めた。
「はしゃいでおる場合ではなかろうに、馬鹿娘が……!」
「………星辰剣……?」
 低くもれ出た声は、壁に掛けてあった星辰剣のものだった。
「ビクトール、“月の娘”から目を離すなよ」
「……んなこと言われたって、邪魔するのもなぁ………」
「今宵は満月なのだ」

 クラウスは、シエラにお茶に誘われた。
 此処しばらく王国軍との戦いも膠着状態で、束の間の平和が続いていた。軍議も長引くことはなく、クラウスは空いた時間をいつものように図書館で過ごした。頼んでいた本が入荷して、それは部屋で読もうと図書館を出たところで、シエラに会った。
「クラウスさん、勉強は終わったのですか?」
「……えぇ」
 そう答えて、クラウスは思わず太陽の位置を確かめた。
「あの、でしたら、お茶でも一緒に……」
「えぇ、良いですよ」
 頷くクラウスを見て、シエラは嬉しそうに笑った。
 並んで歩きながら、まだ夕暮れ前だというのに今日はどうしたんだろう、とクラウスは不思議に思う。
 雪のように白い肌。陽を浴びてキラキラと輝く白銀の髪。宝石のようなピジョンブラッドの瞳。はにかんだ笑顔を浮かべているこの少女が、実は“月の紋章”を宿した吸血鬼であることをクラウスは知っていた。
 ルルノイエにある屋敷の書庫の中でもさらに奥まった本棚に、そのボロボロになった本はあった。伝説の蒼き月の村について書かれた本。幼い頃、夢物語のようにその本を読んだ。
 だが、それは事実を書いていたのだと、隣を歩く少女を見て知った。吸血鬼の特徴である深紅の瞳、日中は寝ていることが多いこと。そして、陽の光が平気なのは、“27の真の紋章”である“月の紋章”の継承者であるなによりの証だった。
 それでも、クラウスはシエラの前では知らない振りを通した。シエラが、自分にだけ、見た目通りの少女を演じ続けるのを知っていたので。なにがそんなに気に入られたのかはよくわからないが、シエラが自分の前でだけ、無理矢理止められたその時間に戻れるというのなら、それに付きあうのも悪くないと思った。
 『好き』という気持ちと違う気はする。ただ、哀しい。
 “27の真の紋章”の継承者は皆、哀しい人たちばかりだとクラウスは思う。『力』を望んで、あれだけ憎んでいたルカと似た道を選んだジョウイも、もう誰にも傷ついて欲しくない、といつも自ら矢面に立つゴクウも。いつだって無愛想な上官のルックにしても、他人を遠ざけているのは、置いていかれる淋しさを少しでも軽減するためのように思える。そして、底知れぬ闇を内包するトランの英雄は、だからこそ人が愛おしい、と微笑む。
(哀しい。……とても、愛(かな)しい人………)
 クラウスはシエラを見つめた。
「……?」
 シエラが首を傾げる。なんでもないですよ、とクラウスは首を振った。

 楽しい時間は、瞬く間に過ぎていく。
 レストランのテラスでクラウスとお茶を楽しみ、他愛もない会話を交わし、普通の少女と変わらぬ時間を、シエラは嬉しさと切なさの入り混じった想いで過ごした。
 己は異形の者なのだ、と思い知らされることになろうとは、夢にも思わずに。
 夕陽に赤く染まったバラ園を、二人は散策した。バラにはまだ早い季節だが、春の花々が咲き誇る中を歩き、並んで城壁から夕暮れの景色を眺めた。
「あ、月が昇りますよ」
「………月が……」
 シエラは、クラウスが指さした方向を見やる。
「今夜は満月ですね」
 地平線から、夕陽を映して真っ赤な月が昇り始めたのが見えた。

 ドクン……!

 突如、左手から駆け上がるように痛みが走った。
「……!」
 左手を押さえようとして、シエラは驚愕に目を瞠った。
 そこには、ネクロードから取り返した“月の紋章”が宿してある。手袋をするのが嫌で、見えないように術を施してあるはずのそれが、淡く蒼い光を発していた。
「シエラさん……?」
 地平線を眺めていたクラウスが振り返った。シエラはとっさに手を後ろにまわし、右手で左手を押さえつける。
「どうかしましたか?」
「い、いいえ、なんでもありませ、ん………」
 早鐘のように脈打つ鼓動で、声の震えを押さえるのが至難の業だった。
(……喉が、渇く………)
 疼く左手、高鳴る鼓動、急激に渇いてきた喉。どれもこれも嫌なことを思い出させる。紋章に取り憑かれたばかりの頃の、忌まわしい記憶。自分が主になったはずなのに、もうこんな想いをすることもないと思っていたのに。
(どうして、また、こんな想いをさせる……!)

 血のような夕焼けの中、満月が、妖しくも美しい姿をさらした。

 それが、引き金だった。
 シエラは、静かにクラウスに近づいた。ただ首筋を見据えて、その肌の内を流れる血を欲して。
 触れんばかりに近づいたとき、クラウスがシエラの顔を覗きこむようにして名を呼んだ。
「シエラさん……」
 どこか哀しげな微笑をたたえたクラウスと目があって、シエラは己のしようとしたことに気づき後ろへ飛び退った。
「ご、ごめんなさい……! 私、用を思い出しました……!」
 身を翻して、シエラはその場を走り去った。
「シエラさん!」
 クラウスが呼び止める声を振り払い、シエラは走った。身体を駆ける忌まわしい欲望から逃れるように。
(あぁ、喉が、渇く………。誰か、誰か、この欲望を断ち切って……!)
 血を求めて狂いそうになる心を、わずかばかりに残った理性で抑えこみ、シエラは白蝙蝠に変化すると階段の踊り場から外へと飛び立った。

 急速に藍に染まりだした空に、白い大きな蝙蝠が飛ぶのを、ビクトールは庭で見つけた。
「シエラ……!」
 白蝙蝠は急速に、城から遠ざかっていく。舌打ちをして、ビクトールはそのあとを追いかけた。
 星辰剣に聞いた話が、グルグルと頭をまわる。


「満月がどうしたって?」
 椅子にすわって、テーブルの上を片づけながら、ビクトールは訊いた。
「“光を映す者”が正当な継承者のもとへ戻って、初めての満月だ」
「それが……?」
「“光を映す者”の呪いは凄まじい。人を異形に変えるのだからな。力の源である人の血を望む本能は、ちっぽけな理性など簡単に吹き飛ばす。しかも、この城はバランスが悪い
「血を飲むのはたまにじゃねぇのか?」
「黙って、私の話を最後まで聞け」
「……はい」
 口答えをすると余計に話がこじれそうだったので、大人しく壁に掛かった星辰剣を見上げた。
「取り憑かれた当初は、その本能に苦しめられたことだろう。永い年月をかけて、あ奴は“光を映す者”を抑えこめるようになったのだ。しかし、紋章は奪われた。手にしていたのと同じくらいの年月が過ぎて、やっと取り戻したのだ。あ奴は“光を映す者”の強大な力を、四百年ぶりに浴びることになる。再び思い知ることになるだろう、その呪いのおぞましさを」
「星辰剣様、質問です」
「なんだ」
「ネクロードから紋章を取り返したのは結構、前のことだぜ。なんで、いま頃になって?」
「満月のせいだ。満月は、我ら夜に生きる者に大いなる力を与える。“光を映す者”の力も最大限に引き出される。それと、この城のバランスが闇に、陰に傾きすぎているのも力を暴走させる要因だな」
「バランス……?」
「“27の真の紋章”の属性の話だ。一つの例外を除いて、すべて陰陽に振り分けられる。この城には四つの真の紋章があるが、私も“光を映す者”も陰だ。そして“視えざる者”も陽を内包してはいるが、本質は陰。此処で唯一の陽である“守護する者”は力は強大だが、完全体ではないが故に、三つもの陰と対等を保つことができない」
「待て待て……! こんがらがってきた。……えぇっと、陰と陽が、三対一になってるってことだよな。………だけどよ、別に変わったことなんて起きてないぜ?」
「当たり前だ。貴様、夜、私が出かけているのをなんだと思っているのだ」
「……へ?」
「私が崩れたバランスを修正しているからではないか。……もっとも、“視えざる者”は封印されているのでバランスを崩すようなことはないし、近頃は“生死を統べる者”も気を遣っているので、目に見えて異常な事態にはならないがな」
「………ルキアの持ってる紋章は、どっちに属するんだ?」
「あれが、唯一の例外だ。陰陽を完全な形で持つ者
 話のスケールの大きさにビクトールはついていけず茫然としている。やはり熊男には高尚すぎたか、と内心で呟いて、星辰剣は話をもとに戻した。
「満月は陰の象徴。天秤は、完全に陰に傾いてしまう。………恐らく今宵だけではあろうが、“月の娘”は血を求める本能に苦しめられるだろう。理性が弾け飛んで、手当たり次第に人を襲わねば良いがな」
 ガタッと音を立てて、ビクトールは立ち上がった。
「どうした、ビクトール」
「馬鹿野郎! 星辰剣、なんでそれを先に言わねぇんだ!」
「フン、空っぽのお前の頭でもわかるように説明してやったのではないか」
「チクショー、シエラ、何処行った!?」
 窓から外を見下ろすが、シエラたちの姿があろうはずもなかった。
「よせ、ビクトール。もはや、月が昇った。貴様に止められるものか。却って、“月の娘”を煽るだけだ」
「俺の血が吸われるのは構やしないが、他の奴が巻き添え喰うことじゃないだろう!」
 壁に掛かっていた星辰剣が宙に浮き、ビクトールの進路を塞いだ。
「吸血鬼を心底、憎んでいるはずの貴様が、血を吸われるのは構わない、だと……?」
 ビクトールは言葉に詰まる。
「貴様の故郷が滅んだのも、もとはといえば“月の娘”の不注意で紋章を奪われたのが発端だ。なにもかもあ奴のせいではないか。それでも、構わない、と……?」
 なにかに耐えるようにうつむいて、ビクトールは拳を握りしめた。
「…………いまさら、グダグダ言ったって、過去はもうどうにもなりはしねぇんだ……。あの時あぁすればとか、こうだったら良かったのにとか言っても、もう過去は厳然とそこに在るんだから仕方ねぇんだよ! だったら、未来に俺の村みたいなのができねぇように、現在(いま)を変えるしかねぇだろ!!」
 顔を上げて、ビクトールは星辰剣を睨んだ。
「なにも行動する気がないんだったら、俺の邪魔をするな、星辰剣!」
「………わかった」
 星辰剣は道を空けた。ビクトールは猛然と部屋を飛び出した。


「何処まで行ったんだ、シエラ………」
 街道を外れて、森の中に入ったのは月の光で見届けたが、それから先の行方がわからない。鬱蒼とした暗い森の木々をかきわけ、もう此処を出てまた何処か別の場所へ行ってしまったのか、と思い始めた頃、血の臭いが鼻腔を突いた。
 まさか、と焦る思いで、血の臭いを辿って走る。木の根に躓きそうになったり、茂る枝葉に腕や足、顔に掻き傷ができたが構っていられなかった。
「シエラ!」
 空をも覆う木々が、ほんの小さな空間だけ途切れていた。そこから射しこむ月光を浴びて、シエラの姿とそれを支える桜の木がぼんやりと白く浮かんでいた。不自然に左手を上に挙げて、シエラは散りだした桜の幹にもたれてすわりこんでいる。他に人影はなかったが、血の臭いが強く立ちこめていた。
「……!!」
 血の臭いの許を探して、シエラの姿を凝視したビクトールは絶句した。
 挙げられた左手には、シエラの武器である“フルムーン”が深々と突き刺さっていたのである。流れ出た血が腕をつたい、真白(ましろ)の服を汚(けが)し、白銀の髪を染め、敷きつめられた花びらを血に染めていた。
 シエラは自分で、左手を磔(はりつけ)にしたのだった。
「シエラ!!」
「来るな、ビクトール!!」
 近づこうとしたビクトールを、シエラは強い声で止めた。
 ビクトールを見据えた瞳は、いつにも増して赤く煌めいている。この位置からでも、犬歯が伸びていることもわかった。
「それ以上、近づくでないぞ、ビクトール。でなければ、わらわはこのまま左手を貫通させて、おんしに襲いかかることになる」
「………良いさ、それでも」
 カサリと草を踏んで、ビクトールはシエラに近づいた。シエラは身体中を駆けめぐる狂気に耐えるように、きつく目を閉じ唇を噛んだ。カタカタと、目に見えて身体が震えている。そのたびに、左手に新たな傷ができ血が流れ落ちた。
「…………こんな、こんな想いを、またすることになるとは………」
 震える声が、言葉を刻んだ。きつく噛みしめた唇からも、膝の上で握りしめた右手からも、血が流れ出す。
「シエラ………」
「………ビクトール……」
 顔を上げて、ビクトールを見つめたシエラの目から、涙が零れた。
「殺して………」
「!」
「……わらわを、殺してくれ、ビクトール………。誰かを傷つけなければ生きていけぬこの身には、もう、耐えられぬ……。つけた端から、傷を癒してしまう“月の紋章”じゃが、おんしの持つ星辰剣なら、“夜の紋章”なら、わらわの命を絶つことができる……」
「馬鹿野郎!!」
 ビクトールは怒りに身体を震わせて怒鳴った。そして、膝をついてシエラを抱きしめる。
「いつもの強気な態度はどうしたんだよ……! お前は“月の紋章”の呪いを抑えこんでたじゃねぇか。血が欲しいなら、俺のをくれてやる。お前の咬み跡なんか、いままでの修羅場に比べたら、傷のうちにも入りゃしない。だから……頼むから、死にたいなんて言うな……!」
「…………おんしが、修羅場を歩む羽目になったのは、わらわのせいぞ………」
「お前が、俺の故郷を滅ぼしたんじゃない」
 ビクトールの腕の中で、力無くシエラは笑った。
「同じことじゃ……。………わらわが、蒼き月の村を作ったばかりに……」
「そう思うんだったら、罪の意識があるなら、なおさら、死ぬんじゃない。次の宿主が、お前みたいに人を襲うのを嫌う奴だっていう保証は何処にもないんだぜ。俺の故郷みたいなのをもう二度と出したくないと思うんなら、死にたいなんて言うな! お前は生きて、その罪を背負って生きていくことが、償いになるんだ。死は、その罪から逃げただけで、決して償ったことにはならないんだよ……!」
 深い哀しみを押しこめた声が、ボロボロになった心に染みこんだ。100年前にも似たようなことを言われた。いまだ記憶は色褪せていないのに、恐らくもう何処にもいない彼を思い出す。彼とはとうとうともに歩くことはできなかったが、ビクトールはこうして傍らにいてくれる。
 シエラは血にまみれた右手でビクトールの背中にしがみつくと、声をあげて泣いた。ビクトールはしっかりとシエラを抱きしめた。

 やがて、シエラが泣き止んで落ち着いたのを見計らって、ビクトールが“フルムーン”を引き抜いた。新たにできた傷は、月の光を浴びて瞬く間に塞がってしまった。
「………見よ、ビクトール。あれほどに傷ついていた両手は、もう痕すら残っておらぬ」
 両手を見つめて、シエラは自嘲気味に笑った。
「……だけど、痛みは此処に残ってるだろ……?」
 ビクトールはシエラの胸を指す。
「流れた血は、もとに戻らないだろ……?」
「…………あぁ、そうじゃな………」
 疲れたように、シエラは幹にもたれた。
 身体を喰い破りそうな勢いだった狂気は、いつの間にかおさまっていた。恐らくは、ビクトールにまとわりついていた星辰剣の気が、“月の紋章”を抑えこんだのだろう。だが、喉の渇きまでなくなったわけではない。シエラは、隣にすわるビクトールを見上げた。
 視線に気がついたビクトールは、シエラを抱き上げると膝の上にのせる。
「………なんとなく、思ったんだけどよ」
「なんじゃ?」
「“月の紋章”がお前を選んだわけ」
 腰に手を置いたまま、ビクトールはシエラを見つめた。
「お前が、血を求める本能に負けないってわかってたからじゃないかなって……」
 シエラは目を瞠り、頬を赤くした。それを誤魔化すように、ビクトールの首に腕をまわして顔を耳許によせる。
「……おんしは、ほんに楽天的じゃのぉ………」
「せめて、前向きって言って欲しかったぜ」
 ビクトールは華奢な身体を優しく抱きしめた。

 一つになった影を照らす月影は、変わらず蒼い。
 重なる二人に振る花びらは、罪に触れてなお白い。
END






 シエラ篇でした。暗くて、スプラッタで、超弱気ですみません!(爆) いつもと違う状況に追い込まれたから、と大目に見てください〜m(_ _)m
 オババの話なのに、何故に外伝扱いでないのかと言えば、紋章を宿した時点では子供だったから。このシリーズを始めたときから、シエラのことも書くと決めていました。
 壁紙も特別扱い(;'-') 同じシリーズでそろえるつもりだったのが、これを見つけた時点で他は考えられなく・・・。
 実は『桜ノ書感』と同じ時間帯だったりします。ビクトールのしけこみ先は、シエラのところだったのでした(笑)

 星辰剣の講義にあるように、うちの“27の真なる紋章”たちは属性を陰陽(もしくは光・闇)に分類できます。
 “真なる風の紋章”を陰に分類したのは、四大の風を司る西の白虎が、風水では陽を抱えた陰になっているので。
 するりとすべりこませた小ネタを回収した話はアップ済みデス。

 もう一つ。
 うちのシエラは公式無視して、恐ろしく髪が長いです。太ももにかかるくらいあります。
 何故かと言えば、小妹がくれたイラストのシエラがそうだったから(爆) もう、脳内ビジュアル変換があのイラストのシエラ! いままで出てきたシエラも全部そうです。なので、すくってキスが落とせる(笑)

 世界の中心で、ビクシエを叫び続けます(笑)