札を受け取ったルックは、国境警備隊の砦でゴクウたちと合流した。
「………無事なようだね」
 バルカスとお茶を飲んで休憩しているゴクウたちを見て、ルックは軽く息を吐き出した。
「まぁ、いまのところは魔物たちもこいつを目がけては来てないな」
 少し疲れた様子のビクトールは、戦いのせいではなく、星辰剣との無駄な口争いのせいでグッタリしているようだった。
「これ、刀身に貼っておけってさ。鞘は、いまグレッグミンスターで作ってるから、それまでの代用品」
 ルックは預かってきた札をビクトールに差し出した。
「おぉ、すまんな、ルック」
「なんの札なの?」
 ゴクウが札を覗きこむ。
「なんでも、“烈火の紋章”を封じてあるらしいよ」
「そんなことできるの!?」
「さぁね。……“古の秘法”とやららしい……」
「“視えざる者”、それは“地然星”の差し金か!?」
 心底、嫌そうな声で訊いたのは星辰剣である。
「差し金って……。そんなことまで知らないよ。この札をくれたのは、“地周星”のほうさ」
「…………まだ、失われてはおらぬか………」
 苦虫を噛み潰したような声だった。
「なに、ぶつくさ言ってんだ。貼るぞ」
 星辰剣の柄を手にとって、ビクトールは刀身に札を貼った。
「……うわっ!」
 札を貼ると同時に、急激に重くなった星辰剣をビクトールは取り落としてしまった。
「馬鹿者! もっと丁寧に扱わぬか!」
「んなこと言われたって……。くぅ〜、馬鹿みてぇに重い〜」
 ビクトールはなんとか星辰剣を持ち上げる。
「……星辰剣、大丈夫なの?」
「これは使い物にならんな」
「うわ、こいつはひでぇや」
 みんなに次々に言われて、ようやくビクトールは星辰剣の異常に気づく。
「……なんだよ、この刃は………」
 美しく輝いていた星辰剣の刀身は、真っ黒に黒ずんでしまっていた。
「『火気』で『金気』を殺してるんだ。鞘ができるまでは、それで我慢するんだね」
「………マジかよ……」
 星辰剣を杖にして、ガックリとビクトールは膝をついた。
「……ちょっとの間の辛抱だけど、なんだか勿体ないな」
 残念そうに呟いたゴクウをルックは見た。それに軽く肩をすくめて答えて、ゴクウは言葉を続ける。
「まるで星を鍛えたように綺麗な刃だったのにって思ってたから」
 相変わらず良い眼をしてる、とルックは胸の内だけにその言葉を留めておく。
「まぁ、とりあえず鞘の代わりは手に入れたから、グレッグミンスターへ向かおうか」
 ゴクウの言葉に、一行は立ち上がった。


 バルカスの案内もあってか、ゴクウたちは無事にグレッグミンスターへ着いた。
「いらっしゃい。なんとか無事みたいだね」
 出迎えたルキアに、ゴクウは苦笑する。
「ありがとう、ルキア。必要以上に魔物に襲われずにすんだよ」
「どういたしまして。……あれ、ビクトールは?」
 屋敷を訪れたメンバーの中には、ビクトールと星辰剣の姿はなかった。
「先に、マリーの宿屋で休んでるよ。星辰剣がお札のせいで、倍以上に重くなっちゃって疲れたみたい」
「イイ薬だよ、まったく……」
 不機嫌そうに言ったルックに、二人の英雄は苦笑いを浮かべる。
「鞘が完成するまでにはもう少しかかるから、ゆっくりしていくと良い」
「うん、もちろん、そのつもり!」
 にっこりと元気良くゴクウは答えた。

 その夜、宿屋のビクトールの部屋を訪れた者がいた。
 開け放した窓から、ふわりと入った白い影。ベッドでぐっすりと寝入っているビクトールは、それに気づかない。
 窓から入ってきた大きな白い蝙蝠は優雅に部屋を旋回したあと、ベッド脇で淡く蒼白い光に包まれた。光が消えたあとに立っていたのは、シエラである。
 ビクトールの寝顔を見つめて微かに笑い、バタフライキスを落とす。それから、小さなテーブルの上に横たえられている星辰剣のもとへ向かった。
「具合はどうじゃ?」
 ビクトールを起こさぬように、とシエラはささやくように問いかけた。
「最悪だ」
 返す星辰剣の言葉は、ビクトールへの気遣いでは決してなく、弱い。
「………確かに、これでは“星月を抱く者”の名が泣こう………」
 刃をくるんでいた布を広げ、刀身を見つめたシエラは眉をひそめた。窓から射しこむ夜の光だけでも、シエラの眼には刀身が黒ずんでしまっているのがよくわかる。
「……すこぶる荒っぽい技で封じてあるのぉ………」
「“セイリオスを望む者”だ……」
「なるほど……」
 刀身のほぼ中央に貼られた札に、シエラは目を留めた。
「まぁ、人にはこれが限界であろうが、おんしは何故、こんな封印に甘んじておるのじゃ? 本気を出せば、たかが五行の眷属を滅するなぞ、雑作もないであろ」
 星辰剣は沈黙した。シエラは眼を眇める。
「…………人に干渉するくらいなら、使われるほうがましかえ」
「わかっておるなら、訊くな……!」
 憤然として返ってきた言葉に、シエラはくすくすと笑った。
「ほんに、おんしは変わり者じゃ」
「貴様に言われたくはないぞ、“光を映す者”」
 シエラは妖艶な微笑を容(かんばせ)にのせた。
わらわは信じたのじゃ、この娘を……。おんしは、信じることを止めたのかえ?」
「………人を壊すのは、もうたくさんだ……」
「おんしのせいだけではあるまい……」
「…………」
 沈黙した星辰剣に、シエラは溜め息を吐いた。
「………そう拗ねるでない。わらわの気を分けてやろうほどに」
 淡く“月の紋章”が浮かんだ左手を、星辰剣の刃に置いた。
 翌朝、シエラの姿はすでになく、いつもと同じ重さになった星辰剣に、ビクトールは首をひねるばかりだった。


 ムースが星辰剣の新しい鞘を携えて、マクドール家を訪ねた。
「ビクトール殿、できあがりましたぞ。これは、私と師匠の最高傑作です」
 自信満々で、ムースは皆に鞘を披露した。
「ほぉ、こいつは見事なもんだ」
「綺麗だねぇ」
「あぁ、素晴らしい出来映えだね」
 鞘は上質の漆で黒光りする地に、石突(いしづき)、責金(せめがね)、口金物(くちかなもの)には銀細工を施し、足金物(あしかなもの)の代わりに五色の紐が飾られている。
「本当に助かったぜ。メースにもよろしく伝えてくれ」
 ビクトールは安堵の息を吐き出して鞘を受け取った。
「悪かったな、星辰剣。鞘ができたぞ」
「ならば、早くこの札を外せ」
「へいへい」
 ビクトールは貼り付けてあった札を外す。札は刀身から剥がされた端から塵になってしまい、跡形も残らなかった。そして、黒ずんでいた刀身が星の輝きを取り戻す。ビクトールは慎重に星辰剣を鞘へおさめた。
「フム、良い鞘だ」
 星辰剣の言葉に、その場にいた全員が胸を撫で下ろした。
「良かったな、ビクトール」
「おう、いろいろ世話になったな、ルキア」
「じゃあ、これ」
 にっこりと笑って、ルキアは一枚の紙切れをビクトールに手渡した。
「なんだ……?」
 紙に書かれていた文面を読んで、ビクトールが凍りつく。
「札と鞘の代金ね」
 ルキアはあくまでもにこやかに。後ろから覗きこんだゴクウは、半ば同情しながらビクトールの肩を軽く叩いた。
「ビクトール、頑張って働いて返すんだよ」
「お、おい、ゴクウ、必要経費ってことで………」
「却下」
 即答。
「これに懲りて、もう少し扱いを丁寧にするんだね。俺たちは先に帰ってるから、ビクトールはきれいに清算して戻ってくるんだよ」
 同情はするものの、やはりリーダーに逆らってまで庇おうとする者はいない。
「では、ビクトール殿、うちでしばらく働いていただきましょう。なに、一週間もすれば都市同盟へ戻れますぞ」
 ムースは気安く請け負った。
「な、なぜなんだぁ〜!!」
 引きずられるようにして連れて行かれるビクトールの叫びが、虚しくこだました。
 それをにこやかに見送って、ゴクウはルキアに改めて頼む。
「ね、ルキア、都市同盟に来てくれないか?」
「良いよ、付き合うよ」
「じゃあ、行こう」
 一行はグレッグミンスターを出発した。

 一週間後、ビクトールはやつれた様子で都市同盟へ帰ってきた。
 ただ、星辰剣のほうは、鍛冶屋連中にちやほやされてご満悦だったようである。
END





 前サイトでは『星を抱く者』でしたが、一字加えて『星月を抱く者 篇』に変更しました。いかがでしたでしょうか?
 このシリーズはもともと、先に書き上げた五人の分と、この星辰剣篇をあわせて六話書くつもりでいました。“門の紋章”は予定外(^^;) ルキアがハイランドメンバーにガツンと言う話(復刊済み)は、さらに予定外(^^;;;

 もっとあっさり、軽いノリで書くつもりでいましたが、ふたを開けてビックリ。こんなにmy設定を出しちゃって、良いのか、私!?って感じでした(爆)
 しかも、肝心な星辰剣についてはぼかしまくりで、あのタイトル大嘘ですね(^^;;;

 補足1:刀剣と鞘の関係は、私にはとても興味をそそられる設定です(『十二国記』や『犬夜叉』の影響であることは否定しません)。星辰剣の場合はどうなるかな、と思って、最初に考えていたのは、鞘を壊したビクトールに降りかかる受難の話にするつもりでいました。それが・・・(>_<)
 メースたちが作ったあの鞘は、日本刀用のお拵えです。たぶん西洋剣であろう星辰剣には、本当だったらあんな鞘にはなりません(^^;;;

 補足2:“夜の紋章”が剣に化身したという特殊な設定は、過去になにかあったのね!?、と思わせるのに充分じゃないでしょうか?(私だけ?) ということで、星辰剣のあの台詞です。この辺、『5』をやるととんでもなく齟齬が出そうですが、そのときはそのとき(;'-')

 補足3:“セイリオスを望む者”について。ここまでするか!?なmy設定(^^;) マナは、クロウリーとヘリオンが大好きなのデス(≧∇≦)
 紋章術を研究していた、魔法結社とご理解ください。彼らの研究成果が、“古の秘法”と呼ばれるものです。いま現在、確認されているメンバーは、クロウリー、ヘリオン、メイザースのみ。ジーンとラウラも入りそうですが、私、この二人は人ではないんじゃないかと思ってるので除外してます。エステラは・・・う〜ん、どうしよう・・・保留で(;'-')
 『セイリオス』とは、ギリシア語で『焼き焦がすもの、輝くもの』の意味があり、大犬座のシリウスのことです(光琳社出版『宙ノ名前』参照)。
 大犬座がこの世界にあるとは思ってませんが、『セイリオス』という名の最も輝く星があるっていう設定。彼らは、星を望んだ者たちなのです。後継者はなく、失われる運命にあります。

 補足4:瑪瑙ちゃんについて。とうとう、オリキャラを出してしまいました(^^;) 使い魔なので、人ではありません。ビッキーも彼女たちに会っています。が、ビッキーはいきなり塔内に現れるので、ご案内の役目を果たしたことはないです(笑)

 もう、補足することはなかったでしょうかね(^^;) 解説がいるような話を書いていては駄目だと思うんですが、自分でもどうしてこんな話になったのかわかりません(爆)
 書き上げてしまったので、一応、お披露目させていただきました。

 ここまで読んでくださって、ありがとうございますm(_ _)m