月の盃
ゴクウが今日の職務を終えて酒場へ来ると、カウンター席にルキアがいた。レオナと楽しそうに話をしている。
「隣り、良い?」
「もちろん」
ゴクウの問いに、同じ笑顔でルキアは答えた。
「仕事、終わったのかい?」
カウンター越しに、ゴクウの前へコースターを置いてレオナが訊いた。
「うん。やっと、シュウから解放されたところ」
盛大に溜め息を吐くと、二人とも笑った。
「なににする?」
「ルキアと同じのが良いな」
レオナの目つきが、ほんの少しきつくなった。
「飲んだことあるのかい?」
「ないから」
あっけらかんと答えたゴクウに、レオナは呆れたように溜め息を吐いた。
「じゃあ、奢ってあげるよ。レオナ、グラス」
ルキアが自分のボトルを示して、レオナに声をかけた。
「………どうなっても、知らないよ」
ブツブツと文句を言いながらも、レオナはショットグラスをゴクウの前に置いた。ルキアが無色透明の酒をグラスに注ぐ。
「ありがと」
ゴクウはグラスを取った。
「どういたしまして。お疲れ様、ゴクウ」
ルキアは自分のグラスを軽くかかげた。ゴクウも、それに答えるように、グラスをかかげる。
「ご馳走になるよ、ルキア」
まるで水を飲むように、ルキアはグラスを一息で空けた。対するゴクウは、一口含んで盛大にむせた。
「あぁ、だから言ったのに………」
レオナがグラスに水を入れて、ゴクウに手渡す。礼もそこそこに、ゴクウは水を飲み干した。
「き、きっつー………。毎日、こんなの飲んでるの?」
「毎日なわけないよ。寝酒はもう少し口当たりの良いのを選んでるし」
ライムをかじりながら、ルキアは答えた。
「じゃあ、どうして酒場ではこればかりなんだい?」
ゴクウの記憶にある限りでは、ルキアがここで飲む酒はだいたい決まっていた。
レオナが気遣わしげにルキアを見た。だが、問われたルキアは少しも表情を変えない。
「これだけきつければ、そうそうたかられることもないだろ」
「……そうだね」
半分も空けていない自分のグラスを、ゴクウは見た。
「それに、みんなが酔っているのに、自分だけ醒めているのは面白くないしな。……これなら、私でも多少は酔えるから」
「…………ルキアって、酔ったことない……?」
「ほろ酔いくらいはするよ。でも、正体をなくしたことはないな。体質らしい」
ゴクウはボトルを取った。
「飲もう、ルキア」
酒を注いでもらいながら、ルキアは苦笑した。
「人の話、聞いてたかい、ゴクウ」
「聞いてたよ。でも、飲もう」
「今日、おろしたばかりだっていうのに……」
零したルキアを、レオナが笑った。
「なに言ってるのさ。いつもその日のうちに空けてしまうくせに」
「だからいつも、今日こそはって思ってるんだけど」
「無理無理」
ゴクウもつられて笑ってしまう。
「………ゴクウ、そのグラスはちゃんと空けるんだよ」
ピタリとゴクウの動きが止まった。
「まさか、私の酒を残すなんてことは言わないよな」
にっこりと微笑まれて、ゴクウは勢いよく首を振った。
「謹んで頂戴いたします」
「よろしい。……一気に飲まなくて良いから」
「身の程はわきまえてるから、大丈夫」
顔を見あわせて、二人は笑った。
だが、それから半刻もたたぬうちに、ゴクウはカウンターに俯せて寝入ってしまっていた。
「あらあら、寝ちゃったねぇ」
「疲れてるんだろう」
レオナとルキアは微笑んで、ゴクウの寝顔を見つめた。
「今夜はちゃんと残った」
ルキアのボトルは、まだ三分の二ほど残っていた。
「珍しいこともあるもんだ」
「ゴクウ相手に一本空けることはないだろ。……素質はありそうだけどな」
「グラス半分しか飲めないんじゃあ、あんたの相手を務めるなんて、当分、先だね、これは」
「そんなに早く追いつかれても困る」
苦笑いを浮かべたルキアを、レオナは横目で見る。
「追いつかれるなんて、欠片も思っちゃいないくせに」
ルキアは、ゴクウの残した酒を飲み干した。そして、にっこりといつもの笑顔を浮かべる。
「お勘定」
「はいはい」
ゴクウの分の支払いも済ませると、ルキアは起こさないように気をつけながらゴクウを背負った。
「すまないね、ルキア」
「平気。………弟がいたら、こんな感じなのかな……?」
「…………そうなのかも知れないね……」
レオナの優しい眼差しに、ルキアはくすぐったそうに微笑むと、酒場をあとにした。
END
前サイトのキリ番『4000』をゲットされた双樹様のリクエスト、『2主君と坊ちゃんとお酒』でした。
ありがたくも、また双樹様のところでサイトアップという栄誉を賜りました(*^_^*)
ルキアはアルコールを完全分解できます(笑) ゴクウはいずれウワバミになるけど、いまはそこそこって感じかな。
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