Time Paradox
虹色の少女 篇
泣いてる声が、聞こえたの。
だから、行かなくちゃって思ったの。
だって、私だけが、行くことができるから………。
気がついたら、まわりは色とりどりの花でいっぱいだった。
「???……此処、何処ぉ??」
花の絨毯の上に尻餅をついてる私。あれ、さっきまでなにをしてたんだっけ?
ふと首を後ろに向けると、驚きで目を瞠る黒尽くめの服を着た男の人がいた。
「ビッキー!?」
「ルキアさん!!」
トレードマークのバンダナもなく、いつもの紅い服でもなかったし、なんだかちょこっと大人っぽい感じだけど、彼は間違いなくルキア・マクドールさん。
「此処、何処………」
ルキアさんのほうへ向き直った私は、質問を最後まで言えなかった。言葉の途中で、思いっきり強く抱きしめられて、固まっちゃって。
だけど、肩に顔を埋めたルキアさんから、低く嗚咽の声が聞こえてきて、やっと気がついたの。
まわりには整然と立ち並ぶ墓標。そして、喪服を着たルキアさん。
……あぁ、誰か、とても大切な人が、亡くなったんだね………。
私は、かける言葉も見つけられなくて、優しく背中を撫でることくらいしかできなかった。
そして、私はもう一つの事実に気づく。
私を此処まで呼んだのは、ルキアさんのとてもとても深い哀しみだったんだ……。
やがて、ルキアさんは落ち着いたみたいで、顔を上げた。
「……ごめん、ビッキー、驚かせたな……」
「うぅん、良いの。……もう、大丈夫?」
「とりあえずは、ね」
「………私を呼んだのは、ルキアさんなんだね……」
泣きはらした目許が痛ましくて、私はそっと、涙の残る頬に触れた。
「…………声、聞こえた……?」
「うん、聞こえたよ。だから、行かなくちゃって思ったの」
私の手に、ルキアさんは自分の手を重ねてやんわりと笑った。
「証が、欲しかったんだ」
「……証?」
「そう………。……時が廻れば、また、逢えるっていう証………」
ほんの少し首を後ろに向けた。
ありとあらゆる花々を捧げられた、真新しい墓標。花に埋もれて、刻まれた銘が見えなくて良かった。それを知ることは、私にはとても怖かったから。
「私で、その証になったのかな……?」
「もちろん。……その時まで、待つ勇気が湧いてきたよ……」
そう言って、ルキアさんが本当に穏やかに笑ったので、私も嬉しくなって自然と笑みが零れた。
「良かった……」
「うん、ありがとう」
「……じゃあ、私、戻らなくちゃ………」
「あ、待って、ビッキー」
「え……?」
ルキアさんは、立ち上がりかけた私をつかまえる。
額に、柔らかく、温かい感触。
「…………ル、ルキアさん……!」
額にキスをされたとわかって、身体中が一気に熱くなった。ルキアさんは慌てふためく私の手を取って立ち上がらせ、にっこりと笑う。
「無事に帰れるように、お呪い」
「あ、ありがとう」
「それから、ビッキーに一つ、約束して欲しいんだけど……」
「なぁに?」
「私に会ったことは、誰にも言わないでくれないかな。私自身も含めて」
「……うん、ルキアさんがそう言うなら………」
「ありがとう。こんな思いがけない再会は、内緒にしておいたほうが、喜びも倍増するからな」
そう言って、ルキアさんは悪戯っぽくウィンクした。
「そっか……そうだね」
私もにっこりと頷いた。
それから、顔の火照りもなんとか静まって、転移魔法を起動するため、自分の元いた空間を思い浮かべようとしたの。
「…………。あれ……?」
「どうしたの、ビッキー?」
「デュナン湖のお城が、わからないの……」
城に置いてある、帰還魔法用の大鏡を目印にして帰るつもりでいたのに、その魔力の存在を見つけられないなんて……!
「………デュナン湖の城って………。……あぁ、そうか………あの時……だから………」
一人、なにかに納得して頷くルキアさん。
「ごめん、ビッキー。その時から此処は、かなりの年月が流れてるんだよ」
「えぇ、そうなの!? ど、どうしよう……」
お城に大鏡がなくなるほどの時間が流れてるなんて、どうやって帰ったら良いんだろう……。
帰る方法がわからなくなって涙ぐむ私に、ルキアさんは大丈夫だから、と優しく頭を撫でてくれた。
「心配しなくて良いよ。私も手伝ってあげるから」
「うん……」
「じゃあ、まずは目を閉じて……」
私は言われたとおりに目を閉じる。
「思い出して。此処へ来る前に、ビッキーはなにをしてた?」
「……うんとね、お城の庭で、巣から落ちた小鳥を見つけたの。それで、帰してあげようと思って、木に登って、そうしたら、ナナミちゃんやメグちゃんたちが来て、危ないよって言われて……」
「小鳥は、巣に帰してあげられたかい?」
「うん! それで、良かったねって笑って、木から下りようとして……」
「それから?」
「………それから………誰かに、呼ばれた気がしたの……」
「私だね………」
「うん……。その時は誰だろうって思って、そうしたら、足が滑って……私、木から落ちたんだ!」
すっかり思い出して、私は目を見開いた。
「はい、よくできました。じゃあ、もう一度目を瞑って、その時の様子をよく思い出してごらん」
「うん」
「それから、額のお呪い、わかるかな……?」
額に意識を凝らすと、ルキアさんがキスを落とした場所に、微かな魔力が感じられた。
「……わかるよ……」
「そのお呪いと、一緒の気配がお城にもあるはずだから、よぉく探してみて」
「………うん」
庭の木、鳥の巣、戻してあげられた小鳥、下から心配そうに見上げるみんな。その中に、同じ魔力の気配があった。
「……見つけた……」
「じゃあ、それを目がけて、あとは行くだけだよ」
ルキアさんの声と同時に、軽く肩を押された。
落下する感覚のあと、背中と足に軽い衝撃があった。
「ビッキー!!」
「ルキアさん!?」
木から落ちた私を、ルキアさんが両腕に受け止めてくれたんだ。
「大丈夫か、ビッキー?」
「此処、デュナン湖のお城?」
縋りついて問いかけた私に、ルキアさんはちょっと驚いたようで、でもすぐにいつもの調子で答えてくれた。
「そうだよ。……木から落ちたとき、一瞬、何処かに転移してたようだけど、無事に帰ってこれたな」
「…………良かった〜……」
ちゃんと戻ってくることができて、身体中から力が抜けてしまう。そんな私を、ルキアさんはよいしょと抱え直した。
トレードマークのバンダナに、お気に入りの紅い服。時間を止められてしまっても、穏やかに笑うことのできる少年。
あの時のルキアさんと、言わないって約束はしたけれど、でも、どうしてもなにか言ってあげたいよ。
「………ルキアさん、あのね」
「なんだい?」
「……私が、『約束の証』だからね。だから、忘れないで、ね」
ルキアさんは最初キョトンとしたけれど、とてもとても優しく笑ってくれた。
「うん、わかった。覚えておくよ……」
私もにっこりと笑うと、遠慮がちな声をかけられた。
「あ、あの〜、ビッキー? ルキア?」
「え?」
すぐ隣りに、ゴクウさんやルックさん、ナナミちゃん、メグちゃん、トモちゃんがいた。……みんな、なんだか呆れてる。
「いつまでそうしてるのさ」
ルックさんの声はいつにも増して不機嫌そう。
「ご、ごめんなさい、私がしがみついちゃったから……!」
慌てて手を放したんだけど、ルキアさんが私を抱き上げた両腕をおろしてくれないんだよ。
「このまま、さらっていきたい気分」
そう言って、本当に綺麗に艶やかに笑うの。トランでも一緒だったルックさんとメグちゃんは、その無敵の笑顔にお手上げ状態。ゴクウさんたちは、茫然と見惚れてしまっている。
「ビッキー、出かけようか」
もちろん私だって、ルキアさんのその笑顔に勝てるはずがないんだから。
「私、レイクウエストに行ってみたかったの」
「じゃあ、決まりだな」
「うん!」
茫然としてるみんなを後目に、私は転移魔法を起動した。
END
この話は、前サイトで入所していた坊ビッキー研究所様に投稿した話です。結局、この話しか投稿できなかった(;'-')
カプ同盟に昔も今も参加していないのは、NLもBLもあるサイトだし、そのカップリング以外にも仲の良いキャラがいたりするので、基本的に遠慮してます。
が、何故かこの研究所様には参加させていただいてました。この話も他の研究員様たちの資料に触発されて書き上げたっぽい(昔のあとがき参照・笑)。対になってる坊ちゃん一人称のEND時間が遙かな未来の話があって、こっちは前サイトで上げてました。ビッキー一人称ヴァージョンは自サイトでは初お披露目です。坊ちゃん篇の復刊は最後から二番目なので、気長にお待ちください(笑)
当寮の坊びきは基本タイムパラドックスネタです。もしくはるくびきにちょっかい出すルキアとか(笑)
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