Time Paradox
漆黒の少年 篇
誓いの言葉が真実であることは知っていたけれど、
だからといって、お前を亡くした哀しみが軽くなるわけもなく、
私は、誰かに、それを証明してもらいたかった。
都中の花を集めて、墓前に捧げた。或いは、真新しい墓標を花で隠して、現実から目を背けたかっただけなのかもしれない。
それでも、やはりなにかを求めていたのだろうか。空気の撓(たわ)みに気がついたときは、本当に驚いた。信じられないという思いと、そうであって欲しいという相反する気持ちが、胸の中でせめぎあう。
だから、転移魔法特有の光が消えたあと、真白の光をまとった少女が現れたとき、私の願いは果たされたのだ。
「???……此処、何処ぉ??」
花の絨毯の上に尻餅をついた格好で、素っ頓狂な声をあげる少女。
「ビッキー!?」
「ルキアさん!!」
初めて会ったときとまったく変わっていない。何処からか、また時間を超えてきてしまったのだろう。ビッキーにとってそれは大変なことなのだけど、でも、いまの私にとってこの思いがけない再会は、泣きたくなるほど嬉しい。
「此処、何処………」
私のほうへ向き直ったビッキーを、抱きしめずにはいられないほどに。
胸にずっとわだかまっていた哀しみと、思いがけなくも訪れた喜びに、私は堪えきれなくなって泣いた。
………いつかまた、逢うこともできるんだ………。
ビッキーは、慰めるように背を撫でてくれた。
やがて、涙も止まって、私は顔を上げた。
「……ごめん、ビッキー、驚かせたな……」
「うぅん、良いの。……もう、大丈夫?」
「とりあえずは、ね」
ビッキーの優しさが、胸に染みる。
「………私を呼んだのは、ルキアさんなんだね……」
そっと、涙の残る頬にビッキーは触れた。
「…………声、聞こえた……?」
「うん、聞こえたよ。だから、行かなくちゃって思ったの」
触れる手に自分の手を重ね、私はやんわりと笑った。
「証が、欲しかったんだ」
「……証?」
「そう………。……時が廻れば、また、逢えるっていう証………」
ビッキーは、ほんの少し首を後ろに向けた。
ありとあらゆる花々を捧げられた、真新しい墓標。花に埋もれて、刻まれた銘は見えないだろう。ビッキーは敢えて訊こうとはしなかった。私にも、答える勇気はまだない。
「私で、その証になったのかな……?」
「もちろん。……その時まで、待つ勇気が湧いてきたよ……」
そう答えて、私は本当に穏やかな気持ちで笑うことができた。ビッキーも嬉しそうに笑みを返してくれる。
「良かった……」
「うん、ありがとう」
「……じゃあ、私、戻らなくちゃ………」
「あ、待って、ビッキー」
「え……?」
立ち上がりかけたビッキーをつかまえて、額に口づけた。
「…………ル、ルキアさん……!」
顔を真っ赤にしたビッキーの手を取って立ち上がらせ、にっこりと笑う。
「無事に帰れるように、お呪い」
「あ、ありがとう」
「それから、ビッキーに一つ、約束して欲しいんだけど……」
「なぁに?」
「私に会ったことは、誰にも言わないでくれないかな。私自身も含めて」
「……うん、ルキアさんがそう言うなら………」
「ありがとう。こんな思いがけない再会は、内緒にしておいたほうが、喜びも倍増するからな」
そう言って、悪戯っぽくウィンクした。
「そっか……そうだね」
にっこりと可愛い笑顔が返る。
そして、ビッキーは転移魔法を起動するために集中した。
「…………。あれ……?」
「どうしたの、ビッキー?」
「デュナン湖のお城が、わからないの……」
ビッキーは目指す物を見つけられなかったようで、途方に暮れている。
「………デュナン湖の城って………。……あぁ、そうか………あの時……だから………」
デュナン湖の城って言ったら、幻影(ホアイン)国建国前、拠点となった城のことだろう。その時の記憶の中から、或る出来事を思い出した。
それにしても、そんな大昔の時間の彼女を呼んでしまったなんて、ちょっと申し訳なくなる。
「ごめん、ビッキー。その時から此処は、かなりの年月が流れてるんだよ」
「えぇ、そうなの!? ど、どうしよう……」
帰る方法がわからなくなって涙ぐむビッキーに、私は大丈夫だから、と優しく頭を撫でる。
「心配しなくて良いよ。私も手伝ってあげるから」
「うん……」
「じゃあ、まずは目を閉じて……」
ビッキーは言われたとおりに目を閉じた。
左手にはヘリオンの指輪。胸許にはルックからもらった指輪もちゃんと下がっている。これだけ目印になる魔力がそろってるなら、眩暈がするほどの時間も無理なく超えられるだろう。
「思い出して。此処へ来る前に、ビッキーはなにをしてた?」
「……うんとね、お城の庭で、巣から落ちた小鳥を見つけたの。それで、帰してあげようと思って、木に登って、そうしたら、ナナミちゃんやメグちゃんたちが来て、危ないよって言われて……」
「小鳥は、巣に帰してあげられたかい?」
「うん! それで、良かったねって笑って、木から下りようとして……」
「それから?」
「………それから………誰かに、呼ばれた気がしたの……」
「私だね………」
「うん……。その時は誰だろうって、思って、そうしたら、足が滑って……私、木から落ちたんだ!」
すっかり思い出したビッキーは、目を見開いた。
「はい、良くできました。じゃあ、もう一度目を瞑って、その時の様子を良く思い出してごらん」
「うん」
「それから、額のお呪い、わかるかな……?」
額に落としたキスには、私の魔力をほんの少しのせてあった。不安定な彼女の魔力が、少しでも落ち着くようにと。
「……わかるよ……」
「そのお呪いと、一緒の気配がお城にもあるはずだから、よぉく探してみて」
「………うん」
ビッキーの身体が、徐々に光に包まれていく。
「……見つけた……」
「じゃあ、それを目がけて、あとは行くだけだよ」
そして、私は軽くビッキーの肩を押した。
光が消えると、もはやビッキーの姿はそこにはなかった。ちゃんと元の場所へ戻れたことを、私は知っている。
いくらか軽くなった気持ちで、私は墓標を見下ろした。
「…………お前の誓いがこの右手にある限り、私は絶対に忘れたりしないから。………だから、また、出逢って、恋をしよう………」
風が、花をさらっていった。
“太極の者”を沈黙させし静女、此処に眠る。名を・・・
END
タイムパラドックス話のルキア視点でした。いかがでしたでしょうか?
前サイトでのあとがきを見るに、相当な難産だった模様。そだね、ルキアの一人称はむずいね(;'-')
しかもこれ、『上邪』より先にアップしてたらしい・・・。裏ネタオンパレードなのに・・・。申し訳なかった・・・。
ともあれ、そゆことデス。眠る彼女の名は、もちろんあの子でしか有り得ないのデス('-'*)
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