前夜
ミリアは、帝都攻撃が間もないことをヨシュアに伝えるために、竜洞騎士団領へ戻っていた。
執務机をはさんで、ミリアは解放軍の今後の予定を報告する。
「そうか、とうとう此処まで来たか………」
椅子に背を預け、ヨシュアは深い溜め息とともに呟いた。
「はい」
ミリアも感慨深げな想いを抱いて頷いた。
「ルキア様の戦いも、ようやく終わります」
ホッとしたようなミリアの口調に、ヨシュアは面白そうに目を細めた。
「ずいぶんと肩入れしたものだな」
「そういうわけでは……」
否定しかけて、ミリアは思い直す。
「……いえ、やはり、そうなのかもしれません」
ヨシュアは手を組んで、ミリアの言葉の続きを待つ。
「……シークの谷でのこともそうでしたが、それ以外にも悲しいことが彼の身の上には降りかかり過ぎましたから………」
「そうだな……。ルキア殿がこの戦いに、一体どう決着をつけるのか、我々は見届けなくては……」
「はい」
頷いて、少し気になったのでミリアは付け加える。
「ヨシュア様の代わりに、私がしかと見届けて参ります」
心外そうな顔で、ヨシュアはミリアを見上げた。
「私も出向くつもりだが」
「ヨシュア様……!」
ミリアが柳眉をつり上げた。
「次の戦いは、帝国と解放軍の生死を賭けた戦いになるのですよ。いままで以上に熾烈な戦いに、ヨシュア様をお連れするわけにはいきません! 御身にもしものことがあったら……!」
いつになく厳しく、ミリアはヨシュアを止めた。だが、ヨシュアの表情も変わらない。
「私にもしものことがあれば、誓約の通りに次の者に継承すれば良い」
あっさりと言われた言葉に、ミリアは身体を震わせた。
「ヨシュア様!」
「騎士団が存続しさえすれば良い。違うか……?」
冷徹な声に、ミリアの反論の余地はない。
「………いいえ。仰るとおりです」
だが、ミリアも負けてはいない。一度、伏せた目を再びヨシュアへ向けた。
「ですが、我らは解放軍に求められて力を貸しているだけです。団長自らが出陣される必要はありません。騎士団の存続を思うなら、尚のこと」
「だが、帝国の打倒も我らが騎士団の意志だ」
「ですから、いつものように副団長である私が出向いているではないですか。……ヨシュア様には、私の働きは不服であると……?」
「いいや、お前にはいつも感謝している」
「ならば……」
「それでも、私が行きたいのだから、快く送り出すのも副団長の役目ではないか?」
平行線をたどる会話。またいつもの展開になってきた、とミリアは内心で溜め息を吐いた。
ごく稀にヨシュアの口をついて出る無理難題に、ミリアはいつも反対していた。だが、どちらも頑なに譲らないので会話は平行線をたどる。そして、結局は団長権限を振りかざして、ヨシュアは自らの意志を通してしまうのだ。
(だが、今回ばかりは譲れない……!)
ミリアは決意の光を目に宿して、ヨシュアに言う。
「危地にわざわざ団長を送り出すなど、副団長としては絶対に承服しかねます」
対するヨシュアは、頬杖をついてミリアをじっと見つめている。
(いつもなら、もう折れてる頃だが………)
この意志はなんとしても阻止するつもりでいるらしい。ミリアの頑なな想いが伝わってくる。
心配してくれていることは、よくわかる。だが、死にに行くわけではないのだ。
この世界で生きる竜のために、“竜の紋章”を宿す騎士団長は、時としてうんざりするほどの過剰な保護を受ける。だが、常に守られている立場にあるとはいえ、槍術でヨシュアに敵う者は騎士団領にいない。そして、竜へ変えられた身体は、人のように柔でもない。ヨシュアにしてみれば、ミリアの心配は過保護でしかなかった。
それに、とヨシュアは夜の帳におおわれた窓の外を眺める。
(………ウィンディめ、この期に及んで悪足掻きを……)
神経を逆撫でする気配に、ヨシュアは眉根をよせた。
「お前がなんと言おうと、私は行く」
断固としてヨシュアはミリアに告げた。そして、また窓の外を見やる。
「それに、私が行かねばこの戦い、解放軍の負けだ」
「……その根拠を教えてください」
「異界の門が開いた。ウィンディが異形の者を集めた軍を作っている。……私の紋章が感知しているその数は、ほぼ十万だ。数の上で互角にしたはずの力関係は、もとに戻ってしまったな」
「そ、そんな……!」
「私が行けば、異界の者たちはもとの世界へ帰すことができる。この紋章も、異界とこの世界を繋ぐものだからな」
「……レックナート様の力を借りれば………」
「無理だな」
ヨシュアの答えはにべもない。
「操り人形にできることなど、たかが知れている」
「ルキア様の力は……」
「……彼にさらなる闇を背負わせるのか、ミリア?」
ミリアは唇を噛んでうつむいた。
ヨシュアの強さはきちんと理解している。それでも、危地に進んで行って欲しくはない。ヨシュアのためにも。自分の望みのためにも。それがエゴであることはわかっていても、止めずにはいられない。
だけど、とミリアはヨシュアの白銀の瞳を見つめた。竜と同じ、いやそれ以上に強く輝く瞳を。
(この方の本質は竜。たとえ、翼も鱗も持たなくても、大空を自由に駆ける人を止めることなんて、できようはずもない………)
ミリアは深く溜め息を吐いた。
「………わかりました」
結局、今日もまたいつもと同じ結果となった。最後にミリアが告げる言葉も決まっている。
「ヨシュア様は、私が命に代えてもお守りいたします」
いつもの誓いの言葉を聞いて、竜王は満足げに頷いた。
「では、そのように準備を進めてくれ」
「かしこまりました」
そこで、ミリアは一礼して退出することにした。
「ミリア」
執務室の扉を開けたミリアを、ヨシュアが呼び止めた。
「……はい」
ノブに手をかけたまま、ミリアはヨシュアを振り返る。次にくる言葉を胸の内で反芻して。
「お前には、いつも苦労をかけるな」
「………副団長として、当然の義務です」
「感謝している」
ほんのわずか笑みを返して、ミリアは出ていった。
数日後、竜洞騎士団は、わずかな留守部隊を残して、ほぼ全軍がグレッグミンスターへ向けて飛び立った。
END
前サイトキリ番『9000』をゲットされた天魁星様のリクエスト、『竜洞騎士団団長&副団長の健全・シリアス風味な話』でした。いかがでしたでしょうか?
竜騎士に初挑戦です。どうなるか、自分でもドキドキしながら書いてました(^^;) でもこれで、漠然としていた竜騎士たちへのイメージがしっかりしてきたかな。『外伝話』も書けそうです(笑)
そして、相変わらずレックナートの立場がなく、外伝扱いにして、『〜子供たち』の棚に置こうかしらと考えてしまいました(^^;;; “竜の紋章”にもいろいろ設定しちゃってるし(爆)
竜騎士好きの天魁星様に、「団長がカッコイイ!」と褒めていただき恐悦至極でした(^^) キリ番の申告とリクエスト、ありがとうございました(*^_^*)
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