anytime anywhere



 春爛漫の綺麗な青空が広がっていた。目の前には、色とりどりの花が地平線に続くまで咲き誇っている。
「わぁ〜、綺麗だねぇ、ルック君」
 ビッキーはふわりと白いスカートをひるがえらせてまわった。すぐ近くに、相変わらずの仏頂面でルックが立ち尽くしていた。
 確かに、花と戯れる可愛い少女は絵になる。それが好意を寄せている少女となれば尚更だ。
 ただし。
「君ね、此処が何処だかわかってるの?」
「…………。わからない……。ルック君は?」
「君が暴発させたのに、僕にわかるわけないじゃないか」
 自分たちが何処にいるのか、わからなければ意味がない。
「どうしよう……?」
 ようやく事の深刻さがわかってきたビッキーは、不安そうにルックを見上げた。ルックは、盛大に溜め息を吐くことで答えた。


 戦争中とはいえ膠着状態が続くとなれば、休日はきちんと取ることができる。
 天気が良いともなれば、何処かへ出かけたくなるのが人の常。
「ピクニックに行こう、ルック君!」
 元気よく誘ったのはビッキー。石版に刻まれた名前を確認していたルックは、煩わしそうに振り返った。
「行かない」
「えぇ、どうして?」
「どうして行かなきゃならないのさ」
「良い天気だし、お休みだし」
「天気に良いも悪いもないし、せっかくの休みだから読みかけの本を読んでしまいたいんだけど……?」
 ことごとく切り返されても、ビッキーはめげずにずいっとランチバスケットを見せた。
「せっかくのお休みだから、遠出しようよ。お弁当もあるんだよ」
 ほんのごくわずか、ルックがたじろいだ様子を見せた。言わずもがなであろうが、バスケットの中味を想像してしまったからである。
「すごく美味しいと思うよ。ヒルダさんも家族でピクニックへ行くってお弁当を作ってて、お裾分けしてもらったの」
 ビッキーが作ったのではないとわかって、ルックは内心、胸を撫で下ろした。だが、慌てて表情を取り繕う。今日は読書をするのであって、出かけるつもりはない。
「ね、お出かけしようよ、ルック君」
 ルックの胸中にはまったく気づかず、ビッキーは小首を傾げて見上げた。絹糸のような艶やかな黒髪が、サラサラと音を立てて肩から滑り落ちる。
「…………。わかったよ……」
 わざとらしく大袈裟に溜め息を吐いて、ルックは頷いた。ビッキーの可愛い仕草に折れたのは明白であったが、幸いなことにそれを指摘する悪友たちは近くにいなかった。
「やったぁ〜!!」
 満面に笑みを浮かべ、飛び跳ねて喜ぶビッキー。
「じゃあ、出かけよう!」
「って、何処へ……」
 何処へ行くのか、とルックが訊き終わる前に、ビッキーは転移魔法を起動していた。

 …………ふりだしに戻る。

 そよぐ風がルックの髪を撫でた。“風”はルックに敬意と愛情を持って接してくれている。ということは、同じ世界の何処かへ出たことには間違いないだろう。
 ただ、ビッキーの暴発である。時代確定までは、さすがのルックにも計りかねた。
 さてどうしたものか、と考えかけて、ふとルックの視界に白いスカートの裾が映った。ビッキーが心配そうにこちらを見上げている。
 花に憂い顔の少女は似合わない。
「………せっかくだから、お昼にしようか……」
 ポツリと呟くように言ってみれば、ビッキーの表情がたちどころに明るくなった。
「うん……!」
 二人で厚手の布を広げ、そこにすわってランチバスケットを広げた。
「ヒルダさんて、本当にお料理が上手だよねぇ。ハイ・ヨーさんのももちろん美味しいんだけど、ヒルダさんのはお母さんの味なんだよね」
 サンドイッチを頬ばって、ビッキーは笑う。
「ね、ルック君もそう思うでしょ……?」
「………そうだね」
 もともと食の細いルックは軽くつまむ程度。でも、それなりに口に運んでいるので、表情ほど不味いと思っているわけではないのだろう。
 バスケットの中味は程なく空っぽになった。
 さわさわと風が花をゆらし、馥郁たる香りを運ぶ。何処までも続く青空を花を眺め、そしてビッキーはルックを見つめた。
「……ルック君、あの、あのね……もし、此処が何処かわからなくても、いつかわからなくても、大丈夫……?」
 怖ず怖ずとそう尋ねたビッキーを、ルックは相変わらずの仏頂面で見つめ返す。
「…………。別に。君となら、退屈だけはしないですみそうだし。此処が何処でいつかなんて、もうどうだって良いよ。………君は、いつも、一人でその不安に耐えてきたのかい……?」
 ビッキーはにこりと笑って、一滴の涙を零した。
「うぅん、平気だよ。いつものことだし。……でも、ルック君にはいつもの事じゃないでしょう……? だからね、嫌われちゃったらどうしようかと思ったの」
 そっと、ルックはビッキーの頬に触れる。
「バカだね、そんなこと考えてたの……? あの城にいて、君の暴発を知らない人がいるわけないじゃないか。いまさら、嫌うもなにもないと思うけどね。……それに、帰れないと決まったわけじゃない」
「うん、うん、そうだね、ルック君。ごめんね」
 触れる手に愛おしそうに自分の手を重ねて、ビッキーは頷いた。
「…………じゃあ、帰るよ」
「うん、帰ろう」
 ルックは二人を囲うように風を紡ぐ。目指すものは少し遠かったが、それでも気が遠くなるほどの距離があるわけでもなかった。

 取り巻いた風が散ると、いつもの大鏡の前。
「さすが、ルック君」
 難なくいつもの場所へと帰り着いて、ビッキーは尊敬の眼差しを向ける。
「別に……」
 素っ気なく返すルック。
「………あ、あのね、ルック君……」
「……なに?」
「私も、ルック君となら、何処でもいつでも平気だよ………」
 言いながら、顔を真っ赤にしてうつむいてしまったビッキーに、ルックはふわりと風を送る。表情には出さないルックの優しさを感じて、ビッキーは顔を上げた。
「じゃあ、暴発するときは、僕といるときだけにしなよ」
 ビッキーは花のように笑った。
「うん……!」
END





 前サイトの一周年企画アンケートにお答えくださった方の中から、抽選で一名様にキリ番『100』を進呈。灯様がゲットされました。リクエスト『るくびきで可愛らしいお話』でした。
 私の書く話、なんか変に色っぽいと自分で思ってて、『可愛らしい』に応えるのが大変でした(;'-') いかがでしたでしょう?

 いつものことながら、タイトル付けにも七転八倒。この二人の命題みたいなものをつけてみました。『何処』はともかく、『いつ』は重要だと思ってます。

 灯様には「可愛い」と言っていただけて嬉しかったです(*^_^*) リクエスト、ありがとうございました(^^)