彼の瞳に映るもの
「う〜、ダメだ! やっぱり、気になる!!」
両手で頭をかきむしって、ゴクウは叫んだ。
「………それで、どちらへ行かれるつもりですかな、ゴクウ殿……?」
執務室から出て行きかけたゴクウを、シュウの氷点下の声が引き止めた。ゴクウはシュウを振り返り、怯むことなくキッパリと告げる。
「グレッグミンスター」
ピシッと空気が鳴ったようだった。アップルはおろおろと、二人を見比べた。
「理由をお聞かせ願えますか」
「彼と話がしたい」
その三人称が示す人物を、シュウもアップルも知っている。隣で泣きそうな表情になったアップルを、シュウは横目で眺めた。軽く溜め息を吐いて、不承不承に頷く。
「護衛がしっかり務まる者をお連れください」
ゴクウはパッと顔を輝かせる。
「早めにお帰りを。これ以上、仕事を貯めるわけにはいきません」
「わかった!」
これ以上ないくらいに弾んだ声で答えて、ゴクウは部屋を出た。
「………珍しくすんなり許可しましたね、シュウ兄さん」
「あんな状態では、勝てる戦にも勝てなくなる。…………お前もついていって良いぞ、アップル」
アップルはビックリしてシュウの横顔を見つめ、やがて微笑んだ。
「自分の仕事を放り出して会いに行ったりしたら、あの人に怒られてしまいます。………機会があれば、会うこともできるでしょうし……」
「……では、手伝ってくれ」
「はい」
ゴクウがグレッグミンスター行きのメンバーに選んだのは、アイリ、ナナミ、カレン、カミュー、マイクロトフの五人だった。
「ルキア・マクドールさんでしょう。お師匠からよく話は聞きました。お師匠の口癖は、『彼以上の男はいない』だったんですよ。いつか、私も会ってみたかったんです」
夕方に近づいたグレッグミンスターに着いて、カレンはほんのり頬を赤くしながら、話していた。
「へぇ〜、そんなに素敵な人なんだ。なんか、楽しみ〜」
ワクワクして言うナナミの後ろから、軽く咳払いする声が降ってきた。慌てたようにナナミが振り返る。
「あ、あの、どんな人かなってちょっと思っただけで、そのね、カミューさんより素敵な人とか、思ってるわけじゃなくて……」
顔を真っ赤にして言い訳するナナミに、カミューはプッと吹きだして頭を撫でる。
「わかってますよ、レディ」
「………また、からかったのね……」
「そういうわけでは」
すっかり二人の世界の彼らに呆れたように溜め息を吐いて、ゴクウはマクドール家の門を叩いた。
「はい、どなたですか? ……おや、ゴクウ君じゃないですか」
応対に出てきたのは、グレミオだった。つい、数日前に別れたばかりのゴクウを見て驚いている。
「すみません、早速、遊びに来ちゃいました」
「いらっしゃい。あ、でも、いましがた坊ちゃんは、出かけたんですよ」
「えぇ、そうなんですか!?」
目に見えて、項垂れるゴクウ。
「グレミオ、お客様は誰だい?」
奥から出てきたのは、クレオだった。
「あら、ゴクウ君。いらっしゃい」
「こんにちは、クレオさん。……あの、ルキアは何処に出かけたんですか?」
「劇場だよ。仲の良かったミーナという踊り子に会いに行ってるの」
「カレンのお師匠だ……!」
ゴクウがカレンを振り返ると、カレンもこくこくと何度も頷いた。
「ね、その劇場って何処にあるの!?」
一瞬、クレオは躊躇う表情を見せた。
「クレオさん、連れてってあげてはどうでしょう。お弟子さんだったという子もいるみたいですし」
グレミオの提案に、これまた一瞬だけ殺気だった視線を向けて、クレオは子犬のように見つめるゴクウに目を向けた。
(…………思いっきり、修羅場になってるはずだっていうのに、グレミオはこういうことにほんと鈍いねぇ……)
深く溜め息を吐いて、クレオは頷いた。
「少しわかりにくい場所にあるから、案内するよ」
「ありがとうございます!」
劇場に着くとカレンと顔見知りの団員がいて、ルキアがミーナの楽屋へ行ったことを教えてくれた。
地下に下り、教えられた通りに廊下を曲がると、ガシャーンッ!と派手な音を立てて、花瓶が楽屋の一つから廊下を横断して壁にぶつかったところだった。
「やっぱり……」
クレオが片手で目を覆う。
「どの面提げて会いに来たって言うのよ!!」
怒り狂った少女の声が、開いた扉の中から聞こえてきた。
「………お師匠」
一行は、恐る恐る開いた扉に向かって進んだ。
「どれだけ……私が心配したと……! あんなに、あんなに、約束したのに……誓ったのに……」
「ごめん、あの時は、それが最善だって……思ったんだ」
「言い訳なんか、聞きたくないわ!」
切れ切れに、少女と少年の声が聞こえる。
「愛してるって……何千回も……言った私に……会いに来るのが……一等、最後なのも……許さないんだから」
「ごめん……ごめん、ミーナ」
「あなたから……その言葉が……返ってこなくても……平気でも……傷ついた……んだからね……!」
進行方向に塞がる扉から、そっと中を覗きこむと、物が散乱した部屋がまず目に飛びこんだ。そして、大きなドレッサーの鏡に押しつけられるようにして、顔中にスカーレットのキスマークをつけられたルキアと、彼の首筋に顔を埋めたミーナの背中。唖然として見つめるゴクウたちに、ルキアはミーナの腰にまわした手もそのままに、悪戯っぽく笑ってゆっくりと片目を閉じた。
立ち直りの早かったカミューが、慌てて、でも音を立てないように静かに、楽屋の扉を閉める。クレオも平静を装いながら、ゴクウたちを外へと促した。
「…………ルキア、いま誰か来た……?」
ルキアの首筋に、当分、消えない痕をつけてミーナは顔を上げた。
「私の知り合いがね」
しれっとルキアは答える。ミーナはしっかりとルキアの首筋に腕を絡める。
「今夜は絶対に、誰にも、譲らないわ」
極上の笑みでそれに答えて、ルキアはミーナに深く口づけた。
「ビックリしたぁ」
マリーの宿屋にあるレストランで、ようやくゴクウは言葉を発した。年長組はそれに苦笑を返し、女の子たちはゴクウに同意するように頷くばかり。
「……で、でも、お師匠、キス魔なところがあって……。私も、顔中、口紅だらけにされたことがあるの……」
カレンがそう言ったとき、ちょうど料理を運んできたマリーが笑った。
「ミーナをキス魔にしたのは、ルキアのほうさ。ルキアは、女たちの中じゃミーナと一等仲が良かったからねぇ」
「え!? カスミじゃないの?」
マリーがクレオと顔を見あわせて苦笑した。
「……ゴクウ君は、カスミがルキア様にあんな大胆な行動がとれると思う?」
「…………うぅん……」
クレオの問いに、ゴクウは首を横に振った。
「ルキアと友達になりたいなら、それなりの覚悟が必要だよ、ゴクウ」
思わず咎めるような目でクレオはマリーを見たが、マリーは茶目っ気たっぷりに言葉を続けた。
「ルキアのキス魔っぷりは、女も男も見境ないからね」
「うっ……」
思わず、口許を拭うゴクウ。
「……ルキア様は、挨拶代わりのつもりらしいけどねぇ……」
軽く溜め息を吐いて、クレオはマリーの言葉に頷く。
「そうそう、昔もこんな事があったよ」
一行は、食事を楽しみながら、マリーの思い出話を聞いた。
まだ、トラン共和国が赤月帝国だったとき。
マリーの宿屋に某国のキャラバン隊が、お土産にフレーバーチョコレートを置いていった。
「ルキア、テッド、食べてみるかい? 美味しいよ」
色とりどりの丸形チョコが詰め合わされた箱を、マリーは遊びに来た二人に差し出した。
「ありがと、マリー」
「うまそ〜」
ルキアとテッドは、それぞれ違う色のチョコを手に取り、口に入れた。
「これは、苺だ。……ルキアのは?」
美味しいチョコに相好を崩して、テッドは訊いた。ルキアは、チョコを口に入れたまま固まっていた。
「………どうした、ルキア?」
訝ってテッドが顔を覗きこむと突然、ルキアはテッドの顔を両手にはさんで引きよせる。
「……!?」
抵抗する間も与えず、ルキアはテッドにキスをした。テッドは目を白黒させている。
「あら、まぁ」
傍らに立っていたマリーは、キスに驚いたわけではなく、ルキアの取ったチョコが何味だったのかが気になっていた。
「………あぁ、スッキリした」
ずいぶん長くテッドにキスをしていたルキアは、ようやく気が済んだのか、顔を上げた。今度は、テッドがすっかり固まっている。
「……何味だったんだい?」
「甜翠瓜(ティエンツイクァ)」
眉間に皺をよせて、ルキアは不味そうに答えた。
「てっきり、抹茶かと思って食べたのに」
ムッとして言うルキアに、テッドが我に返った。
「お、お前なぁー!! だからって、それを俺に、押しつけるか!? キ、キ………」
顔を真っ赤にして、その先が続けられない。ルキアは平然としている。
「キス。口移し。吐き出すわけにもいかないし、どうしようかと思ったんだけど、テッドは好きだろ、それ。だから、チョコはテッドにあげて、俺は口直しして、一石二鳥じゃん」
「違がーう!! お、俺は、男だぞ!」
「知ってるよ、そんなこと」
「男同士がキスしたらおかしいだろ!」
怒り狂っているテッドを不思議そうに見つめて、ルキアはマリーを見た。
「そうなの?」
マリーは苦笑するしかない。まったく悪意の欠片も感じられないルキアに、テッドはガッカリと肩を落とした。
「…………お前がキス魔だとは聞いてたけど、まさか此処までとは知らなかった」
「挨拶だよ、挨拶。減るもんじゃなし。………まさか、テッド、初めてだったとか……?」
「お前なぁ、俺をいくつだと思ってるんだよ、キスの一つや二つ………」
しまった、とテッドは言葉を途切らせる。そっとルキアを見ると、期待に満ちた眼差しで見つめられていた。
「テッドがキスした女の子って、どんな子?」
「うっ……」
心配していたことに突っこまれはしなかったが、かといって、訊かれたことが素直に答えられる話題でもない。
「なぁ、可愛い子か?」
「どうでも良いだろ、そんなこと。マリーさん、ごちそうさま!」
テッドは外へと駆けだした。
「あ、待てよ、テッド……! マリー、また来るな!」
マリーにひらひらと手を振って、ルキアはテッドを追いかけた。
懐かしいねぇ、とマリーは思い出話を締めくくった。
ゴクウは、ルキアのことが気になるものの、男にキスされるのは、と変なところで頭を悩ませている。その横で、ナナミが首を傾げた。
「ね、マリーさん、そのルキアさんが食べたチョコの味。えっと、ち、ティア、ン……?」
「甜翠瓜」
クレオが柔らかい音を紡ぐ。
「そう、それ。どんなもの?」
「果物だよ。……ちょっと値の張る物だけど、都市同盟にもあると思うけどね。向こうじゃ、なんて呼ぶんだろ?」
マリーの問いに、クレオは肩をすくめて首を振る。
「甘くて、美味しいよ。ルキアはあまり好き嫌いしない子だけど、何故だかこれは苦手でね。……確か、まだあったはずだから、デザートに持ってきてあげるよ」
「わぁ、ありがとうございます」
やがて、食事を終えたみんなの前に、マリーが甘い香りのする果物を切り分けた皿を持ってきた。
「これって……」
「メロンだ!」
この場に、この芳醇な香りを放つ魅惑的な果物を嫌いな者はおらず、とろける果肉を美味しくいただいた。
翌日、お昼近くになって、出直してきたゴクウたちを、また申し訳なさそうにグレミオが迎えた。
「すみません、ゴクウ君。坊ちゃんは、まだ帰ってきてないんですよ」
「…………帰らずじまい……?」
目をしばたいて訊くゴクウに、グレミオは微苦笑を返した。
「………羨ましい……」
「なにか言った、ゴクウ?」
ボソリと呟いた言葉に、ナナミが目をつり上げた。ゴクウは慌てて首を振る。
「なんでもない」
「………ミーナさんと一緒なら、たぶん、レスターさんのレストランでブランチでもしてる頃だと思いますよ」
ミーナさんの家から近いですからね、とグレミオは教える。
「そこ、何処ですか!?」
藁にも縋る思いでゴクウは訊いた。
グレミオに道を教えてもらって、ゴクウたちはレスターのレストランにやってきた。
お昼にはまだ早く朝食の時間には遅いので、店内の人影はまばらだった。窓際のテーブルでルキアとミーナがすわっているのを、すぐに見つけられた。テーブルにはコーヒーカップしかないので、食事はすでに終わっているようだ。
「……ルキア」
「やぁ、ゴクウ」
怖ず怖ずとゴクウが声をかけると、気さくにルキアは答えた。誰?、と目線でミーナが問いかける。
「都市同盟にある幻影(ホアイン)軍とトランが協定を結んだのは聞いてるかい……? 彼がそのリーダー、ゴクウだよ」
「あぁ、君がルキアを此処に連れてきてくれた子ね……。私は、ミーナ。初めまして」
「は、初めまして」
差し出されたミーナの磁器のような白い手を、ゴクウはドキドキしながら握った。
「カレンはゴクウのお手伝いをしてるのね」
ミーナの視線は、ゴクウの後ろに立っていたカレンに移った。
「はい……。あまり、お役に立ててないかもしれないけど………」
「そんなことないよ! カレンのステージを見たら、みんな、元気になれるんだから」
ゴクウの言葉に、カレンは頬を染め、ミーナは微笑んだ。
「………あなたたちは、グレッグミンスターは初めて?」
ミーナの視線はさらに、ナナミとアイリに移った。
「はい」
昨日の大胆なシーンを唐突に思い出して、ナナミは顔を真っ赤にして頷いた。
「いろいろまわった?」
「いや、まだ……」
アイリも少し気後れして答える。なんだか、姉を前にしているような気になっていた。
「そうなの? 遠くから来たのに、こんな面白い街をまだ見てないなんて、勿体ないわ。私が案内してあげる」
元気よくミーナは立ち上がった。
「え、え、でも………」
ナナミはゴクウとルキアを交互に見る。
「女の子に買い物も許してあげない男たちのことなんて、気にする必要ないわよ。………どうせ、これから難しい話があるんでしょ……?」
軽く睨まれて、ルキアは苦笑を返す。
「………さぁ、私にはゴクウの用事は見当もつかないけど」
「でも、男たちの話なんか、女の子にはつまらないって決まってるもの。お母さんのところに宿を取ってるんでしょ?」
質問は、カレンに向けられた。
「え、お母さん??」
誰のことかわからずに、カレンはキョトンとする。
「マリーのこと。私たち、そう呼んでるの」
「あぁ、はい、そうです」
「昼過ぎくらいまでに送ってあげれば良いわよね。だから、どうぞ、あなたたちは、つまらない話を心おきなくしていてちょうだい」
テーブルに片手をつき、もう片方の手は腰に当てて、ミーナはルキアを睨んだ。ルキアは困ったような微笑を浮かべて、テーブルの上のミーナの手をポンポンと叩く。
「またね、ミーナ」
再会を約束する言葉をもらえて、ミーナのつり上がった眦はたちまちにゆるんだ。そして、ごく自然に、二人はお互いの頬に交互にキスをした。
「じゃあ、行きましょう」
唖然とする少女たちを促して、ミーナは店を出た。ルキアはそれを笑って見送り、やがてゴクウに目を向けた。
「お待たせ。すわりなよ」
「………うん」
ミーナがすわっていた椅子に、ゴクウは腰を下ろした。
「ゴクウ殿、我々も席を外しましょうか……?」
控え目に問いかけたマイクロトフの言葉に、ほんのわずか考えたあと、ゴクウは首を横に振った。
「構わないよ、別に。……すぐ、済むと思うし」
「……そうですか。では、同席させていただきます」
カミューも軽く頷いて、二人はゴクウの隣りにすわった。
「…………それで……? ただ、遊びに来たわけではなさそうだね」
「うん」
吸いこまれそうな深い瞳に見つめられて、気持ちを落ち着けるためにゴクウは深呼吸した。
「ルキア、一緒に戦ってくれないか」
この願いは、予想の範疇を超えていたようで、ルキアは目を瞠った。隣で聞いていた騎士二人も、ギョッとなってゴクウを見つめる。
「…………。ゴクウ、それは、君個人のお願い? それとも幻影軍の要請?」
今度は、イエスかノーの答えが返ってくることしか考えてなかったゴクウが虚を衝かれた。
「え……? 俺個人の頼みだけど………」
「じゃあ、軍の誰も、君が私に一緒に戦って欲しいと思ってることは知らないんだね」
「………うん……」
いままで『一緒に戦って欲しい』と頼んで、いろんな人たちに仲間になってもらったゴクウには、ルキアがどうしてそんなことを訊くのかさっぱりわからない。
「…………俺、なにか拙いこと言った……?」
カミューとマイクロトフは、困惑の表情を隠しきれない。またルキアを見ると、苦笑を返された。
「誰を仲間にするのも君の自由だし、良いところだ。私も、そうやって解放軍を大きくしたのだから、君の気持ちはよくわかるし、頼まれれば、悪い気はしないよ」
「じゃあ……」
「でも、今度ばかりは軍師殿が反対すると思うな」
「どうしてさ? シュウは関係ないよ。俺、ルキアにいろいろ訊きたいことがあるし、聞いて欲しいこともあるんだ。でも、いまの戦いを放っておくわけにはいかないから、ルキアに都市同盟に来て欲しくて……。……すごく、わがままなこと言ってるのはわかってるけど、でも………」
「………私が懸念しているのは、私の銘が持つ影響力だよ。良いことばかりじゃないからね」
ゴクウは真っ直ぐにルキアを見つめた。
「……そんな簡単にゆらぐような軍じゃないよ」
ルキアは笑った。
「じゃあ、もう一つ。……私にはこっちのほうが重要だ。この戦争、あの女が関わってるだろう」
「………あの女って……?」
「“門番の娘”さ。私はあの女とは二度と関わりたくない」
ゴクウの頭の中で、バラバラと様々な映像が現れては消えた。あの祠の景色が、バラバラと。連続しない絵となって。
「ルックがいるなら、あの女が糸を繰(く)っているのは自明の理だ。……いや、『紋章が』と言うべきか……」
「それこそ関係ない! これは、俺自身が考えて、行動してることだ」
何処までもひたむきな瞳を、ルキアは少し羨ましそうに見つめた。
「そうだね……。…………戦争には参加しないよ。君が出かけるときのお供ぐらいしかしないから。私はあくまでも、君個人の客分だ。それでも良ければ、デュナン湖の梁山(リアンシャン)城に行っても良い」
「それで充分だよ……!」
ゴクウの表情が途端に明るくなる。隣では、カミューとマイクロトフが顔を見あわせて肩をすくめた。シュウの渋面が目に浮かぶようだ。そして、それでもゴクウはちゃっかりと自分の意見を通してしまうのだろう。
「それから、もう一つ良いかな」
「え、なに?」
いまにも小躍りしそうだったゴクウは、心配そうにルキアを見た。今度こそ、とてつもない難題でも突きつけられそうに思って。
「出発は明日にして欲しいんだけど」
「……うん、良いけど……」
なんだそんなこと、とゴクウは胸を撫で下ろす。
「さすがに昨日の今日じゃ、峠越えは私にもキツイ」
肘掛けに頬杖をついて優雅に椅子にすわるルキアに悪戯っぽくウィンクをされて、ゴクウは思わず見惚れてしまった。言葉の意味に気づいたカミューはクスッと笑みを零し、マイクロトフは咎めるように後ろから手をまわして軽く小突いた。ゴクウは唐突に理解して、顔を火照らせる。
「あ……うん、じゃあ、出発は明日の朝ね」
「………それにしたって、こんなに早くみんなの言う通りになるとはね」
「え……?」
「デュナンにいる連中宛に、伝言をいくつか頼まれてるんだ。行くつもりはないって言ったのに、みんな口を揃えてなんて言ったと思う?」
ぼやくような口調のわりには、ルキアの表情は楽しそうだった。
「『賭けても良い。絶対に都市同盟の子に頼まれて、断れない』だってさ。見透かされてるよな」
「……迷惑だった……?」
怖ず怖ずと、ゴクウがそう訊けば、ルキアは惚れ惚れする笑顔で笑った。
「いいや、嬉しいよ。よろしく、ゴクウ」
「こちらこそ……!」
差し出された手を、しっかりとゴクウは握りしめた。
END
『Kisses』改め、『彼の瞳に映るもの』でした。いかがでしたでしょう?
前サイト突発企画でクイズを出しました。
ルキアが苦手な果物「甜翠瓜(ティエンツイクァ)」とは、なにか? 甜(あま)くて翠(みどり)色の瓜とは?
答え、「メロン」のことでした(^^) 日本語でも、漢字では「甜瓜」とか「密瓜」と書く、とメールをくださった方に教えていただきました。ありがとうございます(^^)
てっきり抹茶チョコかと思って食べたらメロン味だった、とはまさにマナの経験(爆) 家の中だったので、速攻、吐き出しました(汚い・^^;) 私、瓜系の果物、全部ダメです(^^;;;
お答えくださった皆様、全員正解でした。ご参加、ありがとうございましたm(_ _)m
で、空きキリ番『600』をゲットされた幸運(不運?)の方は、ネコヤナギ様でした(復刊済み)。
ラストは、クイズの答えがわかるところで終わりにするつもりだったんですが、なんだかあれよあれよとシビアな話が続いて、改題する羽目に(爆) いや、どれもこれも、ルキアとミーナのほっぺにちゅうと、優雅に椅子にすわる坊ちゃんを書きたくなったせいか(;'-')
タイムテーブル的には、ルキアはグレッグミンスターへ帰ってきたあと、トランを一周して国内にいる仲間に会って、最後に地方公演があって行き違いになっていたミーナに会い、都市同盟へ出かけたことになります。
「出発は明日にして」と言った理由はこの辺からもきてることを、ルキアの名誉のために付け足しておきます(笑)
このあと、怒濤の再会篇、タイトル使い回しの『Kisses』へ続きます。
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