恋セヨ、乙女
爽やかな風が木々をゆらして吹きぬけていった。
城から少し離れたデュナン湖の畔に、ポツンと一本の大樹がある。枝を広く横に伸ばしたその木の下は、濃い影を作り、日差しを和らげるのでとても気持ちが良い。もちろん、その枝の上も。葉ずれの音が、格好のBGMになる。
湖を見渡せる太い枝に腰かけ幹にもたれて、ルキアは本を読んでいた。誰にも邪魔されずに読書が堪能できる場所として、最近、見つけたお気に入りだった。膝の上には今日のお供で、身につけた青マントにくるまってマクマクが眠っている。
さわさわとそよぐ風に乗って、人の気配が現れた。視線を下へ向けると、ルックとビッキーが転移してきたところだった。
(デートコースだったかな……?)
此処に自分がいると知ったら、ルックのことなのでさっさと帰ってしまうかもしれない。そんなことにでもなったら、ビッキーに申し訳ない。気配を完全に断ち切って、邪魔をしないことにした。増えた気配に目を覚ましたマクマクにシーッと合図をすると、心得たものでコクコクと頷きが返ってきた。ふわりと駆けあがってきた風にも、口許に人差し指を立てて合図をすると、唇をかすめて流れていった。見逃してくれたようだ。
下の会話は気になるのだが、ルキアはひとまず読書に戻ることにした。
湖を見渡せる根元に腰を下ろして、ビッキーは気持ち良さそうに目を細めた。
「風が気持ち良いね」
「そうだね……」
傍らのルックは、相変わらずの仏頂面で頷き返した。
ビッキーがあんまりにもしつこく話しかけてくるので、人目にも触れないし、城からもさほど離れていない場所ということで、ルックは此処へ転移したことがあった。
それが運の尽き、というべきか。それから毎日のように出かけようとせがまれる羽目になってしまった。
イヤならビッキーが来る頃合を見計らって、先に何処かへ姿を眩ませてしまえば済むことなのだが、なんだかんだ言いながら、ビッキーが来るのを待ってたりする。
ヤキがまわったな、と思わないでもない。
ビッキーが今日の出来事を逐一、話してくれるのを聞き流しながら、ルックはそっと溜め息を吐いた。
「・・・それでね、カスミさんって本当に綺麗になったねぇって話してたの」
うっとりと両手を組んで、ビッキーは言葉を続ける。
「やっぱり、ルキアさんのおかげなんだよね」
木の上でピクリと、反応する人がいたことに二人は気づかない。
「………どうしてそこでルキアが出てくるのさ?」
不思議そうにルックが聞くと、ビッキーは心外だと言わんばかりにルックを見た。
「だって、ルキアさんに恋してるから。その気持ちが女の子を可愛くするんだよ。カスミさんのこと、ルキアさんも大事に想ってるから、ますます磨きがかかるんだって」
「って誰が言ってたわけ?」
「ニナちゃんたち」
かしましくしゃべる女の子たちが目に浮かんで、ルックは呆れたように息を吐く。
「ルキアさんって本当に優しいもんねぇ」
「八方美人なだけだと思うけど」
辟易したようにルックは言う。ビッキーはその言葉が耳に入らなかったようで、かまわず言葉を続ける。
「あんなに大事に想ってもらえたら、幸せすぎて舞い上がっちゃうよね」
木の上で、顔が緩みっぱなしの少年が一人。
「私もあんなふうに可愛くなれると良いなぁ」
「…………可愛いよ」
ポツリと零れた言葉。言った本人は明後日のほうを見て目をあわそうとしない。言われたほうは、まじまじと見つめていた。
「あ、あの、それって、えっと、誰のこと?」
上でズリ落ちそうになる一人と一匹。
ルックはガックリと肩を落とした。
「君は可愛いって言ったんだよ」
顔を微かに赤くして、ルックがもう一度くり返すと、ビッキーも頬を染めて、でも嬉しそうに笑った。
「本当? 私も可愛くなれたのかな……?」
「………頼むから、同じこと、何度も言わせないで」
照れくささを誤魔化すために、ルックはまたそっぽを向いた。
「エヘヘ、じゃあ、それは、ルック君のおかげだよね」
思いもしなかった一言に、またルックの視線はビッキーに釘付け。
「だって、私、ルック君に恋してるから。恋する気持ちが、女の子を綺麗にするんでしょ。だから、私が可愛くなれたのは、ルック君のおかげ」
花のように笑うビッキーは、本当に可愛くて。いつのまにか、こんなに綺麗になっていた。
「……君って、本当に、いつも予測不可能なことを言うね………」
ルックが微かに笑みを零すと、ビッキーはぽぉっと見惚れてしまった。
重なる二つの影に、マクマクのちっちゃな手がルキアの目をふさいだ。
「はいはい、野暮なことはしないよ」
大人しくルキアは視線を湖に向けた。
風が遠慮がちに、ルックの耳許にささやいた。ルックは、軽く溜め息を吐く。
「ルック君……?」
「ん、休み時間の終わりだって……」
つまらなさそうにルックが言うと、ビッキーも残念そうに肩を落とした。
「……そっか。みんな、頑張ってるんだもん、私たちもお仕事しなくちゃね………」
そうは言うものの、こつんとくっつけた額を離すこともできない。
「ね、ルック君、また此処に連れてきてね」
「うん、また、来よう」
約束をもらえて、ビッキーは元気よく立ち上がった。
「じゃあ、お仕事お仕事」
ルックも苦笑して立ち上がると、風を紡いだ。
二人が転移して行ってしまうのを、ルキアとマクマクは見送った。
「帰っちゃったな」
「ムムーー」
「な、マクマク、恋する女の子ってどうしてもれなく可愛いんだと思う?」
「ムム?」
ルキアの膝の上で、マクマクは首を傾げる。
「花が水を浴びて綺麗に咲くように、女の子は好きな人の言葉を浴びて可愛くなるからさ」
「ムムーー!」
納得、とマクマクは頷いた。
「そろそろ私たちも帰ろうか」
「ムー」
一人と一匹は軽やかに枝から飛び降りると、城へ向かって歩いていった。
END
前サイトにて、蔵書『彼の瞳に映るもの』のクイズに正解された方の中から、抽選でキリ番『600』を進呈。ネコヤナギ様がゲットなさいました。リクエスト、『自分に関する(良い)噂話を、立ち聞きしてしまったルキアさんの反応』です。いかがでしたでしょう?
「噂をしているのは、ルックとビッキーが良い」とのご注文でしたので、「よし、るくびきね」とはりきって書きました(笑)
ルックのあの台詞は、私が某サイト様のなりチャで吐いた爆弾発言だったりします(;'-')
結構、好評(?)だったので使ってみました。
この二人、恋愛事に関しては、ビッキーのほうが積極的に押してると思います。でないと、ルックからは誘わないだろうから、なんにも進まなくなっちゃう(笑) 大人な関係になるのは、ずっと先・・・かなぁ?(下世話・^^;)
あ、ルキアのこともちょっとは触れておかないと(;'-')
うちの坊ちゃんはふてぶてしいので、野郎どもからの賞賛は「当然だね」くらい言いそう(笑) でも、女の子たちからの褒め言葉には、素直に相好を崩すと思います。キスのオマケ付きで('-'*)
ナギ様にはお気に召していただき嬉しかったです。甘い話って良いよね(*^_^*)
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