恋のからくり



 バタバタと騒がしい足音をたてて、メグが部屋へ駆け戻ってきた。
 こうやって戻ってきたメグは、たいていなにか、からくり丸にとっては恐ろしいこと、を思いついていて、からくりもどきを作る作業に没頭する。
 だが、今日はいつもと様子が違っていた。普段なら、すぐに道具箱をひっくり返すのだが、メグは机に向かうと紙を広げてなにかを書き出したのである。
「めぐ、ナニヲシテイルノデスカ?」
 机の横へ移動して、からくり丸はメグを見上げた。
「なにって、からくりの図面を書いてるのよ」
 からくり丸は一瞬、自分の機能がどうかしてしまったのかと思った。だが、確かに、いま、メグは図面を書いていると言った。
「図面……。カラクリノ設計図ヲ書イテイルノデスカ?」
「そうよ」
 メグは思いつくままに、自分のアイデアを紙に書きとめている。
「…………。熱デモアルノデハナイデスカ、めぐ?」
「はぁ?」
 ペンを動かしていた手を止めて、メグはからくり丸を見下ろした。
「めぐハ、イママデ設計図ナンテ、書イタコトガナイジャナイデスカ。ますたーヤ私ガ、イッツモ言ッテイルノニ、聞イタ試シガアリマセン。ダカラ、ドコカ具合デモ悪イノデハナイカト」
 ガタッと、メグは椅子から落ちそうになった。
「からくり丸! あんたって、本当に、からくりのくせに失礼なこと言うわね!!」
「本当ノコトヲ言ウノハ、失礼ナコトナノデスカ?」
 大真面目に聞き返されて、メグは溜め息を吐いた。
「……もう良いわ……。あのね、いまから作ろうとしてるからくりは、特別なの」
「特別……?」
「そうよ。だって、これはルキアさんにあげるんだもん。だから、絶対に失敗は許されない物なの。もうアイデアは私の頭の中にあるから、いつものように作っても良いんだけどね。でも、ジュッポおじさんやからくり丸がいっつも設計図を書けってうるさかったから、特別な物だし、書いてみようかなって思っただけ」
「るきあ……。とらんノ英雄デスネ。デモ、ドウシテ、彼ニアゲルカラクリハ『特別』ナノデスカ?」
 メグの頬が、かぁっと真っ赤になった。
「……そ、それは、だって………。………笑って欲しいから………」
「私ノ分析結果デハ、るきあハイツモ笑ッテイマスガ」
 からくり丸の答えに、メグはわかってないなぁと笑った。
「ルキアさんのいつもの笑顔は、本当の笑顔じゃないの」
「……? 分析不能。ナニカ、例ヲ挙ゲテクダサイ」
「うぅん、そうねぇ……。例えば、猫が自分の居場所を確保するために、人間に懐いた振りをするのに、似てるかなぁ」
 英雄を猫に例えるあたりどうだろう、と思いつつ、からくり丸はメグの言葉を分析する。
「…………ワカッタ、ヨウナ気ガシマス………」
「ともかく、私が凄いからくりを作ってあげたら、ルキアさん、本当の笑顔を見せてくれると思うんだ。すごいねぇって、褒めてくれると思わない?」
「………思イマス」
 そんな凄い物が、メグに作れるかどうかはともかくとして、と思ったが、からくり丸は音声変換をしなかった。そう言ったメグの笑顔のほうが、いつもと違って見えたので。
 からくり丸は、自分を作ってくれたジュッポの言葉を思い出す。

「恋でもすれば、あの鉄砲玉娘も少しは落ち着いて、設計図を引くことができるようになると思うんだがなぁ」
 苦笑混じりに、ジュッポは言っていた。
「恋トハナンデスカ? ますたー」
「そうだなぁ……。『特別』をあげたい気持ちだな」
 そう言って、ジュッポは照れくさそうに笑った。

 再び、設計図を書くことに没頭したメグを見て、からくり丸は分析した。
 これが『恋をする』というものらしい。
END





 このオマケは、前サイトで相互リンク記念にUnbalance Material様に差し上げたものでした。もう時効だよね?ってことで掲載。