ようやく空が白み始めた暁降。カーテン越しに朧気な光が、小さな寝室にも進入していた。
部屋のサイズに見合うベッドには、寄り添うように二つの山があり、そのうちの一つが静かに起き上がった。
ゆるやかな波を描く長い白銀の髪が、玉のような肌を滑り落ちて頬にかかる。起き上がったジーンは何度か目を瞬かせ、かたわらに眠るルキアに微笑んだ。
ベッドから抜け出すと、部屋の隅にかけた姿見に抜群のプロポーションを誇る肢体を映す。ぼんやりと発光する身体のおかげで、白い裸体の所々に赤く細長い傷ができているのがわかった。
左の頬に一筋。左肩、胸許、脇腹、太股。うっすらと血を滲ませたミミズ腫れは、左半身に集中している。背を向けて、髪をかき上げれば、背中にも一筋、二筋。
「………もっとつくかと思ったのに………」
さも残念そうにジーンは呟いた。そうして、愛おしく頬の傷に触れる。
昨夜、ルキアにつけられた傷。右手を刺草で縛めた状態では、包帯を巻いていたところでこうなることは百も承知だった。そうなるよう、仕向けもした。
愛された証なら、いっそ欲しくて。
この身体についた傷など、いくらでも修復ができる。なのに気を遣われて、結局、傷の数は両手で足りる。
そんな優しさも深みにはまった一因なのだけど、とジーンは溜め息のように独り言ちた。
「ごめん、やっぱり、傷、作っちゃったな……」
「ルキア……」
いつの間にか目を覚ましていたルキアが、こちらを見つめていた。
「起こした?」
「うぅん」
「右手、大丈夫?」
「……あぁ。熱はない。痛いけど、これは刺草のせいだと思うし」
ジーンはベッドに戻ると、シーツ越しにルキアの身体にまたがった。脇腹の傷に、ルキアの指先がそっと触れる。
「痛む?」
「平気よ。………ね、悪かったって思ってる?」
「思ってる」
艶然と笑って身を屈め、ジーンはルキアに額を寄せた。
「じゃあ、もう一回」
目を瞬たいたあと、ルキアも艶やかに笑う。左腕をジーンの首にまわして、あっという間に下に組み敷いた。
永遠なんて、いらない。この刹那があれば、それで良い。
END
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