Dearest



 月の綺麗な夜だった。だが、深夜、旅を続ける物好きなどいるのだろうか。
「結局、前と同じで夜逃げしてるようなものじゃないか」
 フリックは溜め息を吐いて、相棒に愚痴った。
「ちゃんと挨拶はしてったんだから、良いじゃねぇか。せっかくこんなに月が明るいんだ。沈むまで歩いて、距離を稼ごうぜ。そうしたら、次の街に午後には着けるだろ」
 まったく意に介さず、ビクトールは答える。いつもはのらりくらりと寄り道ばかりしたがるくせに、今回に限って何故か先を急ぎたがる相棒を横目に見やって、フリックはまた溜め息を零した。
 渓流に架かる橋にさしかかり、ビクトールがピタリと足を止めた。
「どうした?」
 訝って、フリックがビクトールの視線の先に目をやると、向こう岸に白銀の少女が立っているのが見えた。
(そういうことか………)
 すべてを納得して、フリックはビクトールの胸を手の甲で軽く叩いた。
「先に行ってる」
 返事のないことを気にも留めず、フリックは先に橋を渡る。
 向こう岸に立つシエラは横を通り抜けるフリックには目もくれず、ビクトールだけを見据えていた。フリックもただ前だけを見て歩いて行った。その背中が闇に紛れた頃、ビクトールは橋へ一歩を踏み出した。シエラも橋を渡り始めた。
 橋の中央で、二人は無言で見つめあう。
 先に動いたのはどちらだったろう。
 首に絡みついた繊手が先か、後ろ髪を鷲づかみにした手が先か。
 髪をつかんだ手は顔を仰のかせ、もう片方の手は華奢な身体を抱き上げる。ビクトールは貪り喰らうようにシエラの唇を吸った。零れ落ちる吐息さえ惜しんで。
 ビクトールは橋の欄干にもたれて、抱き上げたままのシエラを見つめた。
「満足したかえ?」
 熱に浮かされて潤んだ瞳も赤く染まった唇も、柔らかく笑みの形を取った。
「あぁ」
 苦笑してビクトールは答える。
「では、わらわの番じゃ。もう頻繁に飲めなくなる故、少し多めにもらっておこうかの」
「えぇ〜、旅の途中なんだぜ……」
「おんしの都合なぞ、わらわの知ったことではないな」
 艶然と笑って、シエラはビクトールの首筋に唇をあてる。この痛みも走り抜ける快感も名残惜しい。そう思う自分を振り切るように先を急いでいた。
(あぁ、でも………)
 こうやってふらりと、何度でもシエラは目の前に現れるのだろう。それは、予感ではなく確信。だから、自分はなにも言わなかったのだし、シエラもなにも言わないのだ。寄り添う身体の重みだって忘れられないのだから。
 言葉も証も必要ない。
 ただ、時々、無性にそれを確かめたくなる。わかっていて、だから、シエラは来てくれた。さらさらと流れる白銀の髪をすくって、ビクトールは愛おしそうに口づけを落とした。

 一人で橋を渡りきりしばらく歩いていると、野宿にちょうど良さそうな大樹の許でフリックが火を焚いていた。
 とくに声もかけず、荷物を置いて火の側にすわる。フリックもちらりとビクトールを見ただけで、なにも言わなかった。
「……火の番を先に頼めるか?」
 言いながら、荷物を枕に横になる。フリックはしょうがないな、と肩をすくめた。
「わかったよ」
「悪ぃな」
 月はかなり西に傾いていた。
 これから月を見るたび、シエラを思い出すだろう。フリックを笑えなくなるので、このことは絶対に打ち明けまい、とビクトールは秘かに誓った。
END





 ツイッターの#恋題で、“「深夜の橋」で登場人物が「寄り添う」、「吐息」という単語を使ったお話を考えてください”というお題をもらいました。それをもとに書き上げた超短編です。いかがでしたでしょう?
 ブログでは140文字ヴァージョンを上げてますので、興味ある方はそちらもどうぞ。

 で、そのブログ記事でも書いてますが、ビクトール×シエラが大好きな私('-'*)
 シエラは大好きなキャラなので、他人様のナッシエもカーシエもクラシエもなんでも見ますが、うちのサイトはこの二人が定番です。外伝のナッシュとの話はもうメロメロで大好きです。でも、うちのシエラ様はビクトールに出会ってからは、彼は過去の男という認識です(;'-')

 ページタイトルは、ビクシエのテーマ。前サイトでの友達と「ビクシエは少年少女たちと違って、なっっんにもいらないのよね〜vvv」って盛り上がったものです(笑) 『千以上の言葉を並べても』をビクシエ版で書くとこうなるデス('-'*)
 別のビクシエ話でもかなり熱く語ってますので、語りはこの辺で。
 今回の心残りは、ハリウッド映画ばりに濃厚なキスシーンも文章では一行で済んでしまってるとこ(爆)
 ふ、雰囲気を感じていただければ・・・。