Dia dos Namorados/que 1



 丁寧に整えられた芝が広がる庭の一角に大きな木が、目にも眩しい新緑を茂らせる。青々とした葉が作る木陰は、風にあわせてゆらゆらとゆれていた。
 その木陰、木の幹にもたれるようにすわる異形の者。白銀の髪から山羊似た角と耳が突き出し、ドレスの裾から見える足も獣毛に覆われ蹄を持っている。だが、それ以外はまったく人と同じ形の女性とおぼしき黄金の瞳を持つ異形の者は、自身の膝を枕にする者の髪を愛おしげに梳いていた。
 この奥庭へ通じる回廊へ、ティーセットを載せたワゴンを押してやってきた少年は、まるでお伽噺の絵のようなその光景に自分の存在場所を見失う。
 異形の者に膝枕をさせているのは、この屋敷の主でいずれ自分の上官になるであろうウォルターで、やはり愛おしそうに異形の者を見上げて何事かを話しかけていた。ウォルターは異形の者をヨーンという名の使い魔だと紹介してくれたが、睦まじい二人の様子は少年の目から見てもとても主と使い魔という関係には見えない。ヨーンの言葉はウォルター以外の誰にも聞こえず、ウォルターの言葉もヨーンと話しているときは時おり聞こえないことがあった。
 ピクリとヨーンの耳がゆれ、顔を上げた。少年と目があって、やんわりと微笑む。
「どうした、ヨーン?」
 ウォルターはヨーンの視線の先を追って、少年を見つけると手を振った。
「アンダルク、お茶の時間か?」
 名前を呼ばれて我に返った少年は丁寧に腰を折る。
「はい、ウォルター様」
 行儀見習いのために出入りするようになった生真面目な少年に、ウォルターは頷いて身体を起こす。そして、ヨーンに手を差しのべて立ち上がるのを手伝った。
 奥庭を一望できるテラスで、三人そろってアフタヌーンティーをよく楽しんだものだった。

 暖炉の薪がパチリと爆ぜた。長らく使われていなかった山小屋をどうにか住めるくらいに修繕し、アンダルクたちはキリルの怪我の治療に専念していた。
 暖炉の前に、セネカが値切りに値切って手に入れたくたびれた絨毯が敷かれ、ヨーンがすわっている。膝には、最近ようやく回復の兆しの見えてきたキリルが眠っていた。愛おしくあやすように、ヨーンはキリルの髪を優しく梳く。
 暖かな日差しは暖炉の弱い炎に、美しく整った芝は使い古された絨毯に、膝に眠るのはウォルターからキリルへと変わってしまった。
 しかし、そこにあふれる愛情はあの時と少しも変わりはなくて、アンダルクの視界は不意にぼやけた。
「はい、お茶、どうぞ」
 テーブルの上に二人分のマグカップを置いて、セネカが向かい側にすわった。
「あ、あぁ、ありがとう、セネカ」
 零れたものを見られたくなくて、アンダルクは日記で顔を隠しながらセネカに礼を言った。
「失礼ね、他人様の日記なんか覗き見しないわよ」
「……い、いや、そんなつもりじゃ………」
 広げた日記の陰で慌てて目許を拭って、アンダルクは机の上に日記を戻した。顔を上げるとセネカと目があった。セネカはにこりと笑う。
「キリル様は大丈夫」
 なにが大丈夫で、何処にそんな根拠があるのか、セネカだってよくはわかっていないだろう。だが、その微笑みとキッパリとした言葉の力強さは、アンダルクの表情を明るくさせた。
「………あぁ、そうだな……」
END




 恋人の日にちなんで、まさかの『ラプソディア』ネタ。いかがでしたでしょうか?
 攻略本でオチを悟ってしまった私ですが、それでもびっくりしたデス(;'-') でも、ラストの会話聞いてたらね、ちょっといろいろ妄想しちゃって始まりを書きたくなったのですよ。それはちょっとガッツリ書きたいので、今回の企画ではさらっと。

 てっきりキリルが生まれる前に旅が始まってたのかと思ったのですが、それだとアンダルクがまだ10歳で、最初に考えてた話が没になったのは良い思い出デス(≧△≦)

 ただ静かにそこにいただけですが、私はヨーンが大好きです('-'*)