Dia dos Namorados/que 4



 無人島の砂浜で、レイブンは三年ぶりにキカとの再会を果たした。
「………キカ、久しぶり………」
 キカの背後に控える海賊たちが、レイブンに向かってしきりに残念そうに首を振ったり死者を悼むような目で見ている。その理由を他の誰よりも理解しているが、さすがにもう逃げるわけにもいかない。なにより、レイブン自身がよく三年も会わずに耐えたな、と思っているところだった。
「…………。言い残すことは、それだけか?」
 極寒の声音に、レイブンは覚悟を決める。
「ん、できれば多少加減してもらえると・・」
 レイブンが言い終わらないうちに、キカの左ストレートが顔面にクリティカルヒットした。砂浜に背中から落ちたレイブンの耳に、かつての仲間たちの当然だと言わんばかりの溜め息と、新たに知りあった仲間たちの驚愕の声が届く。
 まだ日は高いのに、雲一つない青空には星がチカチカと飛んでいる。
「一年分」
 ざわめきに混じって、決して聞き逃すはずがない大好きなハスキーヴォイスが聞こえた。
(…………あと、二発、耐えられるかなぁ……)
 暢気に思いながら、レイブンはなんとか立ち上がった。顔を上げる瞬間を狙い澄ましたかのように、今度は右ストレート。レイブンは再び、青空に星を見た。
「二年分」
 相変わらず、キカの声音からはなんの感情も読み取れない。お怒りはごもっとも。でも、一つ、言わなくちゃいけないことがあったのをレイブンは思い出した。
「……ま、待って……。言い残すこと、あったから………」
 フラフラとなんとか立ち上がって、かすれた声で訴えて。それすらも許してもらえないかな、と思わないでもなかったが、キカは軽く息を吐いて腰に手をあてた。
「なんだ?」
 レイブンはもたれかかるようにキカを抱きしめて軽く口づけた。そして、ささやく。
「ただいま、キカ」
「…………。三年分」
 手加減なしのボディーブローを決められて、とうとうレイブンは気を失ってしまった。
 キカは、気絶したレイブンを無造作に放り投げた。ゴクリ、と固唾を呑む海賊たちを振り返るその顔にはなんの表情も窺えない。
「ナレオ、悪いがグリシェンデまで送ってくれ」
「は、はい、キカ様!」
 飛び上がるように返事をしたナレオは、走って桟橋へと向かった。
「シグルド、ハーヴェイ」
「はい」
「な、なんスか? キカ様」
「私は船へ戻る。羽目を外しすぎない程度に、皆を休ませてやれ。あとは任せた」
「承知しました、キカ様」
「了解です」
 いつものようにシグルドは丁寧に腰を折り、ハーヴェイは軽く手を振った。
「あ、あの……キカ、さん……?」
 何故だか最大限に勇気を振り絞りながら、キリルが声をかけた。
「なんだい、キリル?」
「あの、レイブンは………」
 キカの背後にいる海賊たちが一斉に顔を青ざめさせ、キカに見えないように止めろと身振り手振りをするのがキリルには見えたが、言ってしまった言葉をいまさら取り消せるはずもない。
「…………あぁ、簀巻きにでもして海へ捨てておいてくれ」
 キカの凄惨なる含笑に、キリルは彼女が女だてらに荒くれ者揃いの海賊船をまとめ上げることができる理由がよくわかった気がした。

 船員たちがすべて無人島で羽根を伸ばしているので、船の中は珍しく静寂に包まれている。波の音を聞きながら、キカは自室で仕事をしていた。
 コンコンコン。
 控えめなノックの音にキカは手を止めた。
「キカ姐、俺ッス。ダリオです」
「あぁ、入れ」
 部屋に入ってきたダリオは、顔の上半分に包帯を巻かれたレイブンを肩に担いでいた。しかめ面のキカに気づかない振りをして、ダリオはレイブンをベッドに乱暴に下ろした。キカの拳が相当効いているようで、レイブンは起きる気配もない。
「海に捨てておけと言ったはずだが……?」
 ダリオはしどろもどろになりながら、懸命に言葉を探す。
「勘弁してやってくださいよ、キカ姐。こいつだって反省してるッスよ」
「反省? 私は、こいつから謝罪の言葉を聞いた覚えはないな」
「そりゃぁ、それ言う前にキカ姐が落としちまうからで………」
「私にそいつを殴る権利はないと?」
 ダリオは頭と手を激しく振った。
「いいえ! 大アリです! こいつがキカ姐のところに帰ってこなかったのが一等悪いです! キカ姐にあんな思いを二度もさせるなんて、許し難い大罪ですよ!」
 だけど、とダリオは肩をすくめた。
「レイブンの気持ちも、俺はなんかわかる気がするんですよ……。……仮死状態だったにしろ、死んだと思ってたろうし思われてたし、それがやっぱり生きてたって顔出すのは、なんか照れくさいんじゃないんですかね。なにより、キカ姐を悲しませたことを、こいつは自分で自分を許してないですよ………。………だから、帰ってこれなかったんじゃないかって、俺は思うんですよ……」
 不器用な男が訥々と語る言葉は、キカの胸にゆっくりと染みこんだ。キカだとて、絶対に許さないと思っているわけではない。しかし。
「……男のくだらない矜持に、女がいつも付き合ってやると思うなよ」
「承知してます………」
 しょんぼりとダリオは頭をかいた。下げた視線に、ダリオは自分の腰に括りつけていた袋の存在を思い出した。
「あ、そういえば、これ、差し入れッス。エマさんが作ってくれたカニ饅頭。上手いッスよ。レイブンはついでで、これを届けに来たんでした」
「そうかい、すまないね」
「いえいえ。それじゃあ、俺は島に戻ります」
 部屋の扉を開けて、ダリオはキカを振り返った。
「あの、キカ姐」
「なんだ……?」
「レイブンに、饅頭をわけてやる必要はないですけど、『おかえり』くらいは言ってやってください。ちゃんと帰ってきたんですから」
 ニカッと笑って、ダリオはキカの返事も待たずに出て行った。
 閉じた扉をしばらく見つめたあと、キカは溜め息を吐いた。袋から取り出した饅頭は、ほんの少しだがまだ温かい。それを頬ばりながら、そういえばレイブンの好物だったな、とキカは思い出して微笑った。

 レイブンは目を覚ました。といっても、目許をなにかで覆われていて視界が利かない。ズキズキと痛む顔に湿布が貼られているようで、冷えた感触は心地良い。そして、懐かしい匂い。
「…………キカ?」
「ん……? 気がついたか?」
 大好きな声。カツカツと木の床を踏む音。近づく気配。ギシリと軋むベッド。
「此処は……?」
「グリシェンデ号の私の部屋だ」
 キカはレイブンの髪を優しく梳いた。
「夜も更けた。カニを食べ損なったな」
 薄く笑う声に、見えなくてもいまキカがどんな表情なのか手に取るようにわかる。
 髪に触れる手に自分の手指を絡めると払われることはなく、さらに引きよせれば柔らかい重みが身体に重なった。
「明日にはずいぶんと男前が上がっているだろう」
 喉の奥で笑う声も好き。
 三年間、無為に過ごしてきたつもりはないが、この愛おしさから身を退こうとしたことは愚かだったと反省している。
「ごめん、キカ」
「………本当に反省しているのか?」
「うん。もう二度と約束を破ったりしない」
 呆れた顔で見下ろして、キカは溜め息を吐いた。
「…………良いだろう。今回は許してやる。が、次はないぞ」
「ん、わかってる。ありがとう」
 痛みに引きつって上手く笑えなかったが、キカが薄く笑い返してくれた気配はわかった。
「おかえり、レイブン」
 そうして、唇に柔らかい極上の甘露が落とされた。
END





 恋人の日ver.2013、レイブン×キカでした。いかがでしたでしょうか?
 やっとこのカプが書けました〜(*^_^*)
 始まりと過程をすっ飛ばして終わりだけ、はいつものことなので見逃してください(爆) いつか、そのうち、きっと書くデス・・・(;'-')

 『4』のパッケージ内側のキカ姐がなんとなくキッチュな感じで好きでして、うちのキカ姐もそれを反映しています。あんまりストイックではないかな、うちとこの彼女は。
 ダリオはゲーム中ほとんど使いませんでしたが、良いキャラだと思います。ナレオには真似をせずに反面教師にして欲しいところ(笑)