Dia dos Namorados/que 5
雨がしとしとと降っている。
細く開けた窓から湖に降り注ぐ雨音が聞こえる。自室のベッドにすわって、ミーナは爪紅(つまべに)を塗っていた。左手の爪をすべて綺麗に塗り終わり、ふふんと得意気に笑う。
「どう? 良い色でしょ?」
そうして、後ろから抱きこんですわるルキアに緋色に染めた己の爪を見せた。
「あぁ、良いね」
肩に顎を乗せた状態で、ルキアは耳許にささやいてくる。吐息のような声が首筋をくすぐって、ミーナはわずかに身動ぎした。
「…………あのね……?」
ほんの少し自分が動揺したのを誤魔化すように、ミーナはすぐ横の顔を睨みつけた。
「なに……?」
ルキアは気にした様子もなく訊き返し、ちょっと位置が変わった体勢をもとに戻すように、ミーナの腰にまわした両腕にわずかに力をこめた。
「解放軍元帥様は、今日はとってもお暇なの?」
わかりやすく嫌味を言えば、さすがにルキアも苦笑を返す。
「ずっと働きづめで疲れたんだよ。半日くらい休みたいってごねてようやくむしり取った自由時間なの」
言われてみれば、まともにルキアと話したのは数日ぶりなことに気づく。
「ごめん……。時間、いつまで空いてるの?」
「夕食まで」
気にしてないよ、というようにルキアはミーナの髪を優しく梳いた。
「あ、じゃあ、雨だけど、何処か行く?」
「うぅん、このままのんびりしてたい。爪も、まだ右手が残ってるだろ?」
「ん、わかった。こっちも早く塗って乾いたら、うんっと甘やかしてあげる」
ルキアは了承の印に鼻先を髪に埋めた。
貴重なルキアの休息の時間。右手の爪もさっさと塗り終えてしまおうと、ミーナは慎重に刷毛を爪に載せた。
「………あ」
「どうした……?」
ミーナの悲壮な声に、ルキアは手許を覗きこんだ。爪紅が少しはみ出していた。
「利き手で塗れないからいつも何処かしら失敗しちゃう……」
念のためにと用意してあった端布ではみ出た部分を拭いたが、うっすらと紅い色は指先に残ってしまう。
「俺が塗ってやろうか?」
「…………ハイ?」
いつの間にか爪紅の容器を持って、ルキアは間近でとても良い笑顔を浮かべていた。
「え、あ、あの、塗ったことあるの?」
「ないけど。さっき見てたから塗り方はわかってる、つもり」
「つもりって……」
「爪からはみ出さないように刷毛で塗れば良いんだろ?」
「そうだけど、色むらにならないように塗るのって、結構難しいのよ……?」
「大丈夫だって。試しに小指だけでも。な?」
キラキラと新しい玩具を見つけた子供のような表情に、ミーナは渋々と折れた。小指ならちょっと失敗してもそんなに目立たないか、と頷く。
「………わかったわ。じゃあ、とりあえず、小指の爪に塗ってみてよ」
「お任せあれ」
大袈裟なルキアの台詞にミーナは軽く吹きだした。ルキアは恭しくミーナの右手をとって、慎重に小指の爪に刷毛を載せた。小さな爪は、一塗りで綺麗に色づく。
「どう?」
「………上手いじゃない………」
意外そうに呟けば、ルキアは得意そうに口の端を上げた。
「他の爪にも塗って良いか?」
「……ん、お願い」
小指と違って他は一塗りでは仕上がらないが、はみ出すことはなさそうだったので、多少の色むらくらいは眼をつぶろう、とミーナはルキアに任せることにした。
見た目よりもずっとがっしりしている胸板に身体を預けると、ルキアが嬉しそうに微笑う。
恋人に手ずから綺麗にしてもらうことはこんなに気持ち良いものなのだな、とミーナはうっとりとルキアの首筋に額を寄せた。
END
恋人の日ver.2014、ルキア×ミーナでした。いかがでしたでしょうか?
滑りこみ(;'-')
慌てて書いたので、ほんとにヤマもオチもイミもなく・・・。もうちょこっとイチャイチャさせたかった気もします。でも、恋人の日のお話はこんな何気ない風景を切り取ったお話ばかりにしたい、という気もするし・・・。とりあえず、今回はこれで。後日、少し手直しするかも知れませんが。
爪紅(つまべに)は、現在のマニキュアのようなコーティングするものというよりは、昔の爪を染めるものというイメージでお願いします。
某野球漫画で爪を保護するためにマニキュアを塗ってる高校球児たちを見てたら、自分でも書きたくなって、さすがにn番煎じだな、だったら幻水で書けば良いんじゃね?と思い浮かんだお話だったりします(;'-')
文字色はミーナが爪に塗ってた色。緋色です。他の話でも使ってたかもですが。
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