Dia dos Namorados/que 6
カクの町は雨がしとしとと降っていた。
(あぁ、傷が、痛む………)
オデッサはベッドで目を覚ました。
帝国中に指名手配されてしまっている身の上では、宿屋に泊まるなんて以ての外。だが、地道な活動は着実に芽吹き始めている。こぢんまりとしたこの家も、賛同してくれた同士がアジトの一つに、と提供してくれた民家だ。
脇腹を押さえながらオデッサは部屋を抜け出し、やけに高い植え込みに囲われた小さな庭に面した濡れ縁へとやって来た。
「………ふぅ……」
オデッサは柱にもたれながら、ずるずると崩れ落ちるように濡れ縁にすわりこんだ。傷はとうの昔に癒えているというのに、こんな雨の日はじわりじわりと嫌な痛み方をする。紋章の力も薬もこの痛みをなくすことはできない、と医者に言われた。人とは、心だけでなく身体にも記憶を残す生き物なのだそうだ。
それから、久しぶりに会った兄の言葉も痛みに拍車を掛けているだろう。
現状の帝国が最早、手のつけようもないほどに腐ってしまっているのに、何故、なにもしようとしないのか。声を荒げたオデッサに、兄は少しも心揺さぶられなかったようだ。もう他人に振りまわされることも心砕くこともたくさんだ、と無表情に告げた。帝国は兄の心も殺してしまったのだ。
きつくきつく拳を握りしめ、唇を噛んで、立てた膝に額を押しつけて、オデッサは痛みをやり過ごそうとした。いま此処には、他に誰もいないのに、どうしても泣きたくなかった。一粒でも涙を零したら、もう立てなくなりそうで、それがとても怖かった。
ふわり、とハニーミルクの香りが漂った。
「……?」
視線を上げてまず目に入ったのは、武骨な手が持つマグカップ。徐々に顔を上げていくと、身体をかがめて心配そうにこちらを見つめるフリックがいた。トレードマークの青いバンダナをしておらず、前髪がバサリと額にかかって童顔にさらに拍車をかけている。最近、仲間入りした彼の無防備な姿をオデッサは初めて見た。
「………フリック……?」
目を瞬いて見上げるオデッサに、フリックはズイッとマグカップを差しだした。反射で受け取ったマグカップには温めた牛乳が注がれており、蜂蜜を溶かしてあるのだろう、甘い香りがする。両手でくるむように持ったオデッサは、その温かさにほぅと肩の力を抜いた。
「それ飲んだら、寝ろ。明日も早くに出発してあちこちまわるんだろ」
ぶっきらぼうな言い方だが、詮索はしない不器用な優しさにオデッサは微笑む。
「えぇ、ありがとう」
大きな手がわしゃわしゃと頭を撫でて離れていった。自分に割り当てられた部屋へ戻っていくフリックの背を見送って、オデッサはハニーミルクを飲んだ。
「………おいし……」
ちょうど良い甘さと温かさ。撫でられてくしゃくしゃになった髪もそのままに、オデッサは少女の頃に戻ったような気持ちで微笑った。
痛みは、もう感じなかった。
END
恋人の日ver.2015、フリック×オデッサでした。いかがでしたでしょうか?
てか、まだ両想いじゃないΣ(|||▽||| )
此処からオデッサがフリックのことを好きになってったって感じ。フリックがオデッサを好きだと自覚したのはいつかなぁ。なんか気がついたらって感じだと良いな、と思うデス。
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