Hug Day/part 1



「テッドのわからず屋!」
 ほんの些細な一言だって、積もり積もれば耐えきれないほど悲しくなる。しかも、好きな人に言われるのだ。どうして自分の想いは届かないのだと、どうしてこんなに頑なに拒まれるのだと、泣きたくなることだってある。
 ある日、しばしの休息に立ちよった石灰棚の島で、テッドの冷たい言葉に、とうとうフレアの心が折れた。一方的に腹を立てていたのはいつものようにフレアだが、喧嘩にもなっていない口論はいつもと違って修復不可能ではないかと思われるほどに気持ちを粉々に砕いた。
 テッドの前から逃げるように走り去って、息が切れるまで走り続けて、フレアはようやく立ち止まった。切り立つ岸壁に手をついて、荒れる息が静まるのを待つ。呼吸だけでなく、荒れる気持ちも静まってきた。
 真っ青な海、真っ白な岩肌、そしてまた真っ青な空。こんな素敵な景色は、群島でもなかなか見られない。これで好きな人と一緒だったら、もっと心は晴れやかだったろう。だけど、テッドは頑なに人との交流を拒む。やむにやまれぬ事情を詳しく知っているわけではない。だが、人と関わりたくないならば何故、エスペランサ号に乗ってきたのだ。
「何故、私を助けたのよ……!?」
 あふれそうになる雫をグッとこらえて、フレアは再び歩き出した。エスペランサ号に帰らなくては。
 その踏み出した一歩が、あり得ないくらい下に沈んだ。
「え……?」
 瓦礫の割れる音、ガクンと沈む身体。とっさに手を伸ばして地面につかまろうとしたが、つかんだところまでももろく崩れ去る。響き渡った悲鳴を聞く者は誰もいなかった。
 カラカラと、小石が転がる乾いた音にフレアは目を覚ました。
「ん………私……」
 うつ伏せに倒れたまま、記憶を手繰りよせる。
「そっか、足下が崩れて落ちたんだわ……」
 慎重に身体に力を入れて、何処か異常がないか確かめる。ゆっくりと起き上がって暗さに慣れた目で周りを見渡した。オベル王宮の広間くらいの空間だろうか。地面に染みこんだ雨水の浸食によりできた鍾乳洞のようだった。見上げると2階くらいの高さに、明かり取りのような穴が見える。あそこから落ちたらしい。立ち上がった足に痛みはなかったが、上に向かって呼びかけようと上げた左腕に痛みが走る。
「いったぁ………。お〜い、誰かいないの!? 助けて!」
 反響する声音。そのあとは耳が痛くなるような静寂になった。
「…………。誰も、いないか………」
 そういえば、テッドと言い争ったところでだって他に誰も見なかった。闇雲に走ったが、エスペランサ号の停泊している場所のほぼ反対側くらいではなかろうか。
「見つけてもらえるかしら………」
 自分の姿が見えなければ、セツあたりが騒ぎ立てるのは確実だ。いないことに気づかれずにおいていかれることはないだろう。此処で大人しく見つけてもらえるのを待つしかない。フレアはすわりこんで膝を抱えた。
 先ほどの一方的な喧嘩がグルグルと頭の中をまわる。あんなに悲しかったのに、いまは会えないことが悲しい。
「あぁ……。どうしてあんな人、好きになっちゃったのかしら………」
 考えたってどうしようもないことは、もうとっくにわかってはいる。だけれど、ちょっとくらい愚痴ったって良いはずだ。あんなに素っ気ない態度ばかり取られるのだから。
「おい、無事か?」
 なんの前触れもなくいきなり声をかけられて、フレアは悲鳴を上げた。
「きゃあぁ!!」
「………無事みたいだな」
 うるさそうに片耳をふさいで、もう片方の手で鎖を握って立っていたのはテッドだった。
「テ、テッド……!?」
「お前の姿が見えないって、じいさんが煩いんだよ」
 ほら、やっぱり、彼は助けに来てくれる。
 フレアはテッドに抱きついた。やれやれと溜め息を吐いて、テッドは華奢な身体を抱き留めた。
 テッドが溜め息とともになにを諦めたのか、いつか訊かなくてはならないのだろうな、とフレアは思う。
(だけど、いまは、このままで………)
END





 リスこ様からいただいたリクエスト『テッド×フレア』で、ハグの日にちなんだお話です。いかがでしたでしょうか?

 シリアス一直線に突き進みそうになって、話の終わりが見えなくなって、慌ててまとめました(;'-')
 テッドが持ってた鎖は“闇御津波”の鎖。いつか訊いた話は次の課題とします。

 リスこ様、リクエストありがとうございます(≧∇≦)♪ 少しでも楽しんでいただけたら幸いです(*^_^*)