Hug Day/part 3



 太陽宮にある女王騎士長の部屋で、ギゼルは一人の男と対面していた。豪奢な執務机を挟んで立つ男を、最後まで理解することはできなかったな、とギゼルは見上げている。
 少年というには大人で、青年というにはギゼルより幼く見える男は、女王騎士の衣装を身にまとっている。ミアキスの記録を破った最年少の女王騎士なのかと見えなくもなかったが、海のような青い瞳は何処までも凪いでいて、男の存在を謎めかせた。あの好戦的なキルデリクさえ、彼にはちょっかいを出さなかったのだ。
「とうとう、アスタリオン王子に此処まで辿りつかれてしまったね」
 男はのんびりとそう言った。
「そうですね」
 ギゼルも同じように返した。
「これも予定調和の内?」
「まさか。王子には早々に倒れてもらうつもりでしたよ」
 窓の外の青い空を、男は見つめる。
「君の部下たちも頑張っていたけれど、王子がそれを上まわったか………」
「あなたも私の部下のはずなんですけれどね」
 苦笑しながら言うと、男は悪びれもせず笑った。
「最初に言ったよ。僕は傍観者だって。君が勝手にこんな大層な衣装を着せたんだろう」
「えぇ、覚えていますよ。おかげで特等席で傍観できたでしょう?」
「まぁね。“悪”がどのようにできあがるのか、ようやくわかった気がするよ」
「…………。さて、私はそろそろ王子を出迎えなければいけません」
 ギゼルは立ち上がって、部屋の扉へ向かう。
「あなたは、どうしますか?」
 振り返ると、男はじっとこちらを見つめていた。
「君の最期を見届けるよ」
「どうして私の負けが確定しているんですか」
 冗談めかして反論すれば、男は至って真面目な表情のまま答える。
「君の剣の腕前を知ってるからね。それに………」
「それに?」
 男は初めて躊躇う素振りを見せた。やがて、答えを待つギゼルに根負けしたように顔を上げる。
「生きるつもりなんてないよね? あの人が、もういないもの」
 海の青に真っ直ぐに射貫かれてなお、ギゼルは完爾と笑った。
「そういう意味でなら、この結果は予定調和の内だと、先ほどの答えを訂正しておきましょう」
 そうして、ギゼルは部屋を出て行った。
 負けるために始めたつもりは、もちろんない。だが、始めた理由が失われてしまっては、もうなにもかもが意味を成さない。
 結果、これも予定調和の内になった。それだけのこと。

 謁見の間で、己を抱き上げる腕にギゼルは薄く目を開けた。
「お疲れ様」
 暢気な言葉はいかにもあの男らしく、ギゼルはこんなときだというのに笑いたくなった。だが、自分の顔はほんのわずか口が動いただけに過ぎない。
「あの人を諦めれば、勝ちはあったと思うよ。それでも、君はこの結果に満足かい?」
 最早、声を出すのも億劫だ。ギゼルは目許を和ませることで、男に答えた。声にならない言葉が届いたのだろうか。男は生真面目に頷いた。
「そうか………。なら、君にはすでに裁きは下されていたというわけだ。僕の出番は、やっぱりなかったね。本当なら、僕の親友に君の魂を送り出して欲しかったけれど………」
 男は途中で言葉を止めた。腕の中で急速に冷えていくギゼルの身体を、優しく抱きしめる。
「おやすみ、許されし魂よ……。いつかまた、廻る輪の中で会えると良いな………」
 満足げなギゼルを再び横たえて、男は太陽宮を跡にした。
END





 ハグの日にちなんだお話です。いかがでしたでしょうか? ハグって軽く抱きしめるイメージでしたが、辞書を引くと“しっかりと抱きしめる”とあったので、良いんです、こんな話でも(開き直った(;'-')

 謎の女王騎士は彼です。深読みしてください('-'*)

 Twitterのネタなんかで天魁星共演とかよく見るし、実に美味しいと私自身も思ってます。でも、うちとこの彼は、こっち側にいるんじゃないかなって思ってできたお話。サイアとは話もしただろうけど、王子とは結局会わず仕舞いかも。
 何故かと言えば。
 トロイのことが、かなりひどくトラウマになってると思うんだ。だから、あの台詞。ギゼルのやり方には否定的だったとは思う。私も好きじゃないし(;'-') でも、その信念はわかる。では、何故、なにが間違ったのか、なにが王子と違ったのか、彼は俯瞰的に見たかったと思うのです。

 もし、彼の忠告通りにギゼルが彼女を諦めていたら、王子は負けてたかも知れないな、なんて思ったりしてます。その後の女王国が長続きしたかどうかはともかくとして。