サキュバスの誘惑



 雲一つない星空。銀河は南天を渡り、さざ波の音が穏やかに届く。テッドは花咲き乱れる砂浜に横になっていた。
 野営を抜け出し、村からも離れたこの砂浜に一人でいると、本当に世界で自分たった一人になったような錯覚に陥る。その感覚はとても心地よいが、帰る場所があるからだろう、という自覚もある。結局、寂しがり屋の本質は少しも変わっていないのだ、と霧の船を降りたあと思い知らされた。育ての親のように達観するには、真実(ほんとう)に人であることを止めない限り無理なのだ、と百数十年かけてようやくわかった。裏を返せば、何百年生きようと人は人でしか有り得ないのだ。
 さくっと砂を踏む音に、テッドは我に返った。顔を音のほうに向ければ、フレアが立っているのが見えた。
「……テッド、起きてるの?」
「あぁ」
 テッドは起き上がって、フレアを見上げた。夜着姿に顔をしかめる。
「お前は、またそんな格好で抜け出してきたのか?」
「べ、別に下着姿なわけじゃないんだから、良いじゃない。それに、灯りもないんだからよく見えないでしょ?」
 ちょっと頬を膨らませて、フレアはテッドの隣に腰を下ろした。
「星明かりにすっかり慣れてるから、丸わかりだ」
「本当に、綺麗な星空ね」
 テッドの苦言をすっかり無視するのにも板についてきた。フレアは星空を見上げて感嘆の息を吐き、テッドはあからさまに溜め息を吐く。
「そんな格好で、不用意に他人に近づくんじゃない」
 ほんの少しテッドは身体を退いたが、フレアはけろりとしている。
「ひっつくような距離じゃないわよ……?」
 いつもと立場が逆転しているような事態に、フレアは気をよくした。両手をついて、テッドににじり寄ってみる。
「なぁに、少しは意識してくれた?」
 テッドは半眼でフレアを睨んだ。
 え、と思った一瞬の間に。
 フレアは両手を取られて、砂浜に押し倒されていた。身体にのしかかられて、鼻先が触れそうな位置にテッドの顔があった。
「俺が男だ、とお前は意識したことがあったのか?」
 醒めた声音とは裏腹に、燃えさかる炎のような激情を持った瞳だった。
「……してるわよ……」
 声が上擦ってしまったことが、口惜しい。
「このまま、心ないまま欲望のはけ口にされるかも知れない、と思ったことはないのか?」
 この問いには、フレアはやんわりと微笑った。思わず、テッドがたじろぐほどの優しい笑みだった。
「心ないままなのは残念だけれど、それでも良い、と思ってるわ。………だって、私の、あなたが欲しいっていう気持ちは真実(ほんとう)だもの」
 フレアは頭を浮かせて、テッドの唇にかすめるようなキスをした。テッドは勢いよくフレアの身体から離れた。
「お前は……! もう少し、自分の立場を認識しろ!」
 これでは負け惜しみの捨て台詞ではないか、という自覚はあるが他に言葉が出てこない。テッドは足音も荒く砂浜を去っていった。
 フレアはまだ横になったまま、星空を眺めていた。そっと指先で唇に触れれば、いまごろ顔が熱くなってくる。
 テッドが離れていく一瞬前、見かけ通りの年頃の少年のような面食らった表情が可愛くて、フレアはしばらくクスクスと笑い声を零していた。
 銀河は南天を渡り、花咲き誇る砂浜にさざ波は優しく届く。
END





 10/20は『テドフレの日』!ってことで、掌編をアップ。いかがでしたでしょうか?

 てか、こんな話で良かったのか?(;'-')
 とある幻水サイト様で、『据え膳にお預けを喰らう』話(このタイトルは私が勝手につけたものです)を読みまして、七転八倒するほど萌えたのですよ(≧∇≦) で、私も書いてみたいって思って、書いたら・・・なしてこうなった?(;'-') Twitterのbotテッドが結構、男前でそこも踏まえて書いたのだけど、逃げちゃったね(・_・?)

 たぶん、テッドは娼婦のお姐さんたちに人気あったと思うです。ぶっきらぼうだけど寂しがりで、たまに縋ってくる可愛い坊や。後腐れなく付き合えるから、お互い楽だったことでしょう。だから、フレアみたいに一途に押されるとたじろぐんじゃないかなぁ、なんて思ってるわけですが・・・。フレアはもちろんテッドが初恋('-'*)

 少しでも楽しんでいただけましたなら幸いです(*^_^*)