Happy Birthday
今日もまた、ゴクウはルキアを迎えにグレッグミンスターへとやってきた。
「今夜は朝まで宴会でしょうから、明日出発できるかどうかも怪しいですよ」
お茶を出してくれたグレミオが苦笑混じりにそう言った。
「宴会?」
「えぇ、今日は坊ちゃんのお誕生日ですからね」
返ってきた答えに、ゴクウは絶句する。
「えぇ〜〜!!」
「ゴクウ君たちもどうですか? 今年はアントニオさんが厨房を取り仕切ってる、マリーさんの宿屋で開きますからね。美味しい料理がたくさん食べられますよ。もちろん、私もいくつか持参するんですが」
言われてみれば、奥まった客室とはいえ、此処まで美味しそうな匂いが届いている。
「………あぁ、そうと知ってれば、なにかプレゼントを用意してきたのに………」
項垂れるゴクウは、ジトッとシーナを見上げた。
「もしかして、それを知ってたから、パーティに同行したの?」
「ハイ・ヨーの料理も美味いが、久しぶりにアントニオのも喰いたくなったんだよなぁ」
悪びれもせず、シーナは笑う。
「別にプレゼントなんかなくったって、ルキアは気にしないぜ? 祝う気持ちがあれば良いんだって」
「でも、シーナはなんか用意してるんだろ?」
「大したもんじゃないけどな」
「裏切り者〜」
恨めしそうに唸って、ゴクウは肝心なことに気づく。今回のお迎えは、同行を申し出た者ばかりではなかったか。
「ヴァンサン、シモーヌ、ローレライもちゃんと用意してるんだ?」
「我らが心の友の誕生日ですから」
「もちろんです」
「預かってる物もあるんだよ」
名前を呼ばれた面々は順番に頷いた。言われてみれば、三人はいつもより大きな荷物だった。
「みんな、どうして俺には預けてくれないかなぁ?」
シーナが不満げに口を尖らせる。
「お前がもう少し誠実さを見せれば済む話だよ」
「ルキア!」
部屋に入ってきたルキアに、シーナは抗議の声を上げる。
「なんか気を遣わせてしまって悪かったな。ゴクウも、別に気にしなくて良いから」
「う〜、デュナンに着いたら、なんか奢らせて……」
「ほんとに気にしなくて良いのに」
「俺がなんかしたいの!」
ムキになって言うゴクウの頭を、ルキアはぽんぽんと撫でた。
「ありがと」
にこりと微笑まれて、ゴクウの頬が染まる。
(天然タラシ………)
とは、誰の心中やら。
マリーの宿屋のレストランを貸し切って、盛大にルキアの誕生日会が開催された。
「この年で、誕生日会ってのもなぁ」
何処から持ってきたのか、豪奢な椅子にすわらされたルキアが苦笑すると、レパントは大きく頭(かぶり)を振った。
「いくつになっても誕生日は祝うべきです、ルキア殿。まして、この国の建国の英雄たるあなたのものなら、なおさら!」
「…………いい加減、それ、止めてくれ………」
げんなりとルキアは答えた。
「あなた、他にもルキアさんにお祝いを言いたい人がたくさんいるんですから、手短にね」
隣でアイリーンが笑う。シーナも申し訳なさそうに、片手を顔の前に立てた。
「う、うむ、そうか。改めて、ルキア殿、おめでとうございます」
「おめでとうございます、ルキアさん」
「おめでとな、ルキア」
「ありがとう」
レパントとは握手を交わし、アイリーンはルキアの頬にキスを落としていき、シーナとはハグをした。
次にルキアの前に来たのは、場所を提供してくれたマリーたちだった。
「おめでとう、ルキア」
「ありがとう、マリー。レストランを借り切っちゃってすまなかったな」
「なに言ってんだい。あんたのためならいつだって、あたしは此処を貸すよ」
マリーもルキアの頬にキスをしていく。
「ありがと」
嬉しそうに笑って、ルキアはそれを受けた。
「おめでとうございます、ルキア様。私の自慢の料理を堪能する時間があれば良いのですが………」
アントニオはルキアと握手を交わしながら、心配そうに言った。
「大丈夫ですよ。私が完璧に給仕を務めますから」
ルキアの後ろに立っているグレミオが、ポンと自分の胸を叩いた。
「ありがとな、アントニオ。今日の料理も美味しいよ」
「畏れいります」
近くのテーブルにすわって、ルキアたちを見ていたゴクウが目を瞠る。ルキアが『美味しい』と言うことは滅多にないのだ。
「ルキア、誕生日、おめでとう………」
セイラが照れくさそうにルキアの前に立った。
「ありがと、セイラ」
見上げるルキアの顔が、特定の女の子たちに見せるものと一緒だ、とゴクウは気がついた。
セイラはルキアの頬を両手で包みこむと、かすめるように唇にキスを落とし、会場の人混みに紛れてしまった。一瞬の出来事だったにも関わらず、ルキアは嬉しそうに笑っている。
「おめでとうございます、ルキア殿」
「ありがとう、ウォーレン」
妻女を伴って、ウォーレンが挨拶に来た。控えめに後ろに立つ妻女は、軽く頭を下げる。
「お祝い申し上げますわ、ルキア様」
「雪緒(ゆきお)もありがとう」
にこりと笑った雪緒は、チラリとウォーレンを見上げた。軽く咳払いをして、ウォーレンは頷く。肩に手を置いて、雪緒はルキアの頬にキスをした。
「ゴクウ、彼女が、件(くだん)のウォーレンの奥さんだぜ」
挨拶まわりを終えて、両親のもとから逃げ出したシーナはゴクウの隣に腰を落ち着けていた。
「…………あ、ルキアの、初めて………の……?」
「そうそう」
「……ほんと、綺麗な人だねぇ……」
「だろ〜」
続いてルキアの前に立ったのは、ユーゴ。
「おめでとうございます、ルキア様」
「ありがと、ユーゴ」
「お互い面倒事は後任に押しつけて、さっさと悠々自適の生活をしたいものですなぁ」
握手をしながらぼやくユーゴにルキアは笑う。
「同感だ」
「お前ら若年寄かよ」
同い年であるはずの二人に、シーナはボソリとツッコミを入れた。
「おめでとうございます、ルキア様」
「ありがと、テスラー」
いまや立派な書記官となったテスラーは、がっちりとルキアと握手を交わした。かと思いきや。
「はぁ、もう帰らねばならないのです………」
ガックリと項垂れた。
「仕事がまだ残っていて………。申し訳ないです、ルキア様」
「あはは、お疲れ様。料理を少し持って行けよ」
「ありがとうございます」
次はモースがルキアと握手を交わした。
「おめでとうございます、ルキア様」
「ありがとう、モース」
「メース様とムース大師匠より伝言を承っております。『お誕生日おめでとうございます。不知火を親金とした太刀は、まもなく完成いたします』とのことでした」
「そうか……。ありがとう」
続いて、ジャバとも握手をした。
「おめでとうございます、ルキア様」
「ありがとう、ジャバ」
「いただいた品で、価値の不明の物がありましたら、儂が鑑定させていただきますぞ」
「ハハ、その時はよろしく」
クン・トーとはハグをした。
「久しぶりだ。誕生日おめでとう、ルキア」
「あぁ、ありがと、クン・トー」
「あいつらも元気にやってるか?」
「たぶんな」
アレンとグレンシールが並んだ。
「おめでとうございます、ルキア様」
口をそろえて優雅に腰を折った二人に、ルキアは不満そうに腕を広げた。二人は困ったように顔を見あわせたが、ん、と催促されて苦笑しながらルキアを抱きしめた。
「おめでとう、ルキア」
「ありがと、グレン」
「おめでと、ルキア」
「ありがと、アレン」
誕生日なのだ。ルキアは大いに甘える気でいる。
続いてやってきたクワンダともルキアはハグをした。
「おめでとう、ルキア」
「ありがと、クワンダ」
「カシム殿からもおめでとう、との伝言でした」
「そうか。ありがとう」
カイはわしゃわしゃとルキアの頭を撫でていった。
「おめでとう、ルキア」
「ありがとうございます、師匠」
子供のようにルキアは笑う。
「ルキア、誕生日おめでとう!」
「ありがと、カミーユ」
元気に言祝いだカミーユはハグをして、ルキアの額にキスを落とした。くすぐったそうにルキアは笑った。
「そうそう、シャサラザードのソニア様と、パンヌ・ヤクタにいるバレリアさんからもお祝いをって」
「嬉しいな」
「これがソニア様で……」
そう言って、カミーユは頬にキスを落とし。
「こっちがバレリアさん」
今度は左手の甲にキスをした。ルキアは拗ねたように頬を膨らませる。
「バレリア、つれない………」
カミーユはピンとルキアの額を弾く。
「あんまりいじめないの」
「ちぇ」
二人のやりとりを不思議そうにゴクウは見ていた。
続いて、クレオとパーンがルキアの前に立った。
「おめでとうございます、坊ちゃん」
声をそろえた二人とルキアはハグをした。
「ありがと、クレオ、パーン」
そのまま次に譲ろうと下がりかけたクレオの腕を、ルキアはがっちりとつかむ。
「坊ちゃん?」
「クレオ、キスは?」
こてんと首を傾げてねだれば、クレオは目許を引きつらせて固まった。
「今日、誕生日」
にっこりとそれはそれは幼い頃を彷彿とさせる笑顔に、とうとうクレオは折れた。
「あんまりからかわないでください……」
そう釘を刺すことは忘れずに、クレオはルキアの頬にキスをした。
「ん、ありがとう、姉さん」
レスターがやって来た。
「誕生日おめでとうございます、ルキア様」
「ありがと、レスター。店を休ませてしまったみたいで悪いな」
「とんでもありません。この場に参加できなかったら、気になって仕事どころではありませんでしたよ」
「そうか」
「私も自慢の料理を持参しております。あとでお召し上がりください」
「ん、楽しみにしてる」
続いて、ルキアの前に立った三人に、ゴクウは軽い眩暈を起こした。
「ルキア、誕生日おめでとう」
「ありがと、ミルイヒ、ヴァンサン、シモーヌ」
まったく動じた様子もないルキアは彼らとハグをする。ただただゴクウは賞賛の眼差し。
「デュナンの梁山(リアンシャン)城にいる者たちからも祝福の言葉をもらってきていますよ」
預かってきたプレゼントは、すでにマクドール邸で渡してあるが、もう一度、ヴァンサンはそう言った。
「そうか、ありがとな」
「翠玉の姫、お先に失礼いたしました」
シモーヌが貴婦人の手を取って、ルキアの前へエスコートする。
「おめでとう、ルキア」
エスメラルダがドレスをつまんで優雅に腰を折った。
「ありがと、エミィ」
微かに頬を赤くして、動揺を隠すようにエスメラルダは扇で口許を覆った。やがて、やはり根負けしたように溜め息を吐いて、ルキアの頬に手を添える。
「本当にしょうのない人だこと」
ついばむように、ルキアの唇に触れる。嬉しそうに目を細めて、ルキアは受けた。
「………天然タラシ………」
ぼそりとゴクウが呟けば、慰めるようにシーナが肩を叩いてきた。
「ルキア〜、誕生日おめでと!」
飛びつくようにルキアに抱きついたのはロッテだ。
「ありがと、ロッテ」
ロッテもルキアの唇にキスを落としていった。
「おめでと、ルキア」
「ありがと、ローレライ」
ローレライはルキアの首筋にキスをした。くすぐったそうにルキアは小さく笑い声を上げる。
「えぇっと、デュナンにいる子らからも伝言もらってる。誕生日おめでとって」
ローレライはルキアの左手を取った。
「アップルから」
手の甲に触れる柔らかい感触。
「ビッキーとテンガアールから」
額に二回、キスが落とされた。
「カスミとメグとジーンから」
角度を変えながら、三回、ローレライはルキアに口づけた。
「ありがと」
うっとりと見上げるルキアとそれを艶然と見下ろすローレライは、まるで一幅の絵を見るようだった。
チャップマンがルキアのもとへやって来た。
「おめっとさん、ルキア」
「ありがとな、チャップマン」
二人はハグをした。
「んじゃ、トリはうちの看板舞姫に任すぜ」
チャップマンが場所を譲れば、凜と立つ舞姫、一人。
「誕生日おめでと、ルキア」
「ありがとう、ミーナ」
もちろん、二人は口づけを交わした。
(あぁ、そうか、カスミとメグは譲ったのか………)
複雑な表情で、シーナは二人を見つめた。
「ねぇ、シーナ」
ちょんちょんとゴクウがシーナの袖を引っ張った。
「どした、ゴクウ?」
「女性陣のキスって、なにか法則があるの?」
「あぁ。する場所にそれぞれ意味があるのさ」
「へぇ、どんな?」
好奇心に眼をキラキラさせてゴクウは訊くが、シーナはその頭を押さえこむように撫でまわした。
「そんな野暮を俺に言わすな」
「えぇ〜、気になるよ〜」
文句を言うゴクウを無視して、シーナはダンススペースで踊るルキアとミーナを眺める。踊りながら、ミーナはルキアの顔中についた口紅を落としてやっていた。二人とも楽しそうに笑っている。
「俺も、誰か踊ってくれる子、探してくるか」
ぽっと胸にお裾分けしてもらった暖かいものに微笑んで、シーナは席を立った。
「あ、シーナ、待ってよ」
「ゴクウ、お前も来い。せっかくのパーティなんだから、楽しんでいかないとな」
慌てて席を立って、ゴクウはシーナを追いかけた。
宴はまだ始まったばかり。
手なら尊敬。
額なら友情。
頬なら厚意。
唇なら愛情。
瞼なら憧れ。
掌なら懇願。
腕と首なら欲望。
さて、それ以外は、狂気の沙汰。
フランツ・グリルパルツァー『接吻』(1819)
END
坊ちゃんの日にあわせてなにか書きたくて、すごい急ごしらえで上げました(>_<) いかがでしたでしょうか?
当初、掲示板にちらりと触れたマッシュとの話を上げる予定だったのですが、めさめさ暗い話で書き上げるのに到底間に合わないと判断して、諦めたんですが。そういえば誕生日の話を書いてなかったなぁって思って、どういう風になるかなって考えてたら割と形になって書き上げてみました。それでも間に合わないと思ってたけど、最後まで書けたので最低限の編集だけしてアップ(;'-')
もうこんなことしない(;'-')
あ、坊ちゃんの誕生日を11月11日に設定しているわけではありません。うちとこの坊ちゃんは真冬生まれ('-'*)
オリキャラ出してしまってすみません。『月来香』で触れてた真赭太夫です。名前に捻りが足りなかったかも(;'-') 源氏名と本名が同じなわけはないけど、多少似通ってても良いかなと。
『エミィ』をエスメラルダの愛称にしてみました。いまは誰一人残っていない家族とルキアしか呼んでなくって、解放軍時代以降ではルキアも呼ぶのを控えてたんだけど、甘え上手のルキアは此処ぞという時に呼んだのでした。
誰か取り零した人はいないかな? 大丈夫かな? バルカスは国境警備だから無理だし、ケスラーもパトロール隊長だから仕事優先かな、と省いてしまいました(;'-')
カミーユが、ソニアには『様』付けでバレリアには『さん』なのは、仲間だった期間の違い。バレリアは叩き上げだから堅苦しいのは嫌ってたでしょうし。来てもらおうかとも思いましたが、任務に忠実な彼女たちは無理してまでは来ないかな、と。
キスの場所の意味はフランツ・グリルパルツァーの詩から。この辺の風習はハルモニア時代からのかなと考えています。
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