S-1 天山の峠
凄く、ヤバイ事に巻きこまれた。いつの間にか追われる羽目になって、ジョウイと北の崖まで逃げた。
ジョウイ「仕方ない。ここを飛び降りよう」
ゴクウ「えぇー! この滝壺に飛びこもうって言うのかい!?」
ジョウイ「そうするしか、ラウド隊長たちから逃げられないよ」
【最初は、崖を登って逃げようって言ってなかったけ?】
お母さん、こんな大変なときに茶々入れないで。
ゴクウ「……でも、ジョウイ、君、泳ぎが………」
ジョウイ「行くよ、ゴクウ!!」
【あ、誤魔化した】
お母さん!
【ほら、追っ手が来たよ】
ったく……! 僕は自棄になって、滝へと飛びこんだ。
S-2 二人
【ゴクウ、大丈夫?】
ゴホッ、ゲホ、だ、大丈夫なわけないだろ。
ビクトール「やっとお目覚めかい?」
…………熊。
【あれ、この顔、どっかで見たことあるなぁ】
お母さんの知り合いなの?
【う〜ん、何処だったっけ?】
あ、また誰か来た。
【!!!! フリックーーーーー!!!】
お母さんが凄い勢いで、あとからやってきた青い人に抱きついた。見えないからって、大胆な。
それにしても、ジョウイは大丈夫かな。青い人、もといフリックさんが助けようとしてくれたみたいだけど、見失ったって言うし。お母さんはあんな調子だし……。先が思いやられる。
S-3 働かざる者、食うべからず
ついうっかり、自分の身許を正直に言ってしまったため、傭兵隊の砦で捕虜になってしまった。
【ゴクウは正直なのが良いところよ】
そりゃ、どうも。
ま、捕虜っていったって雑用してれば良いだけだったから、不自由は感じなかったけど。
ポール「じゃあ、今日はこの部屋を片づけてくれ」
ゴクウ「わかったよ」
ポール「このでかい箱は、きちんと壁に寄せておいてくれよ」
ゴクウ「任せて」
さて、始めるか。
なにが入っているのかわからない木箱を、きれいに壁に寄せる。
【あれ、一つ、余ったね】
隙間なくきれいに壁に寄せたが、一つ、入りきらないのが出た。どうしようかな。
【隅に寄せておいたら?】
そうだね。向かって右側の奥の箱に寄せておいた。それからロープを片づけて、ポールを呼びに行く。
ポール「お、もう済んだのかい? 感心感心」
倉庫にポールと一緒に戻ってくると………。
【…………なんか、違ってない?】
違ってるね。奥の箱に寄せておいた一つが、手前の壁に移動してる。
ゴクウ「…………」
ポール「? どうした、ゴクウ?」
ゴクウ「……ポール、ここって、なんか噂ある?」
ポール「噂?」
ゴクウ「出る、とか………」
ポール「………な、なに言ってんだ、ゴクウ、あ、あはは………」
【………出るんだ】
そうみたい。ま、害はないみたいだから、良いか。
【そういう問題なの?】
だって、被害受けたわけじゃないし。
【あんたって子は、剛毅なのか、図太いのか………】
S-4 親友
幾日かたった頃、ジョウイが助けに来てくれた。
でも、すぐに見つかって、ジョウイともども、また牢屋入り。
ゴクウ「良かった、ジョウイが無事で。心配してたんだよ」
ジョウイ「ゴクウ……」
ゴクウ「でも、人参はちゃんと食べようね」
ジョウイ「…………」
夜も更けて、みんなが寝静まった頃、ジョウイが食事の時に借りたスプーンを取り出した。
ゴクウ「………ジョウイ、なにするつもりだい?」
ジョウイ「もちろん、ここから逃げ出すんだ。捕まったその日のうちに逃げ出すなんて、向こうも思ってないだろうからね」
そりゃ、そうだ。
【えぇ〜、ここ出てくの? フリックがいるのに〜】
お母さん、あのねぇ……。
ゴクウ「それで、そのスプーンでどうするのさ?」
ジョウイ「こうやって曲げて………」
曲げたスプーンを持った手を格子から出して、鍵穴に差しこんでガチャガチャとしていると、カチンという音とともに鍵が開いた。
ゴクウ「…………」
ジョウイ「行くよ、ゴクウ」
地下牢を出て、正面の入り口を伺うと、やはり見張りがいる。
ジョウイ「ゴクウ、君の持ってる油のついた布と火打ち石を貸してくれ」
ゴクウ「うん……」
ジョウイは布に火をつけると、僕たちのいる反対側へ投げた。火が木の床を焼く。
傭兵「なんだ、この臭いは……? あ……!!」
見張りたちが、慌てて奥へ様子を見に行った。
ジョウイ「よし、いまのうちだ」
ゴクウ「…………」
入り口は鍵がかかっているので、2階へ向かう。下は、結構な騒ぎになったようだ。
ジョウイ「ここから、何処か外へ出られないかな」
ゴクウ「それなら、ベランダへ出られるところがあるよ」
ベランダへ出ると、ロープをジョウイへ渡す。手すりに結びつけて、そこから下へおりた。
傭兵隊の砦が見えなくなるまで走った。
ジョウイ「はぁ、はぁ、はぁ……。ここまで、来ればもう大丈夫だろう」
ゴクウ「そ、そうだね」
乱れた息が落ち着くのを待つ。
ゴクウ「……ジョウイ、君って、意外とやるもんだね」
【そうよねぇ。脱獄、器物破損に、放火まで。とても貴族のお坊ちゃんには見えないわ】
ジョウイ「あ、あはは、本で読んだことを真似てみただけだよ」
ジョウイは乾いた笑いで誤魔化した。
ジョウイ「さ、ゴクウ。キャロへ帰ろう」
ゴクウ「うん、そうだね」
僕らは、二人並んで、夜の道を歩きだした。
|
|