S-5 旅の一座
砦を抜け出した翌朝、僕たちはリューベの村へ着いた。
ゴクウ「少し休んでいこうよ、ジョウイ」
ジョウイ「そうだね」
宿屋で遅めの朝食を取っていると、なにやら外が騒がしくなってきた。
ジョウイ「なんだろう、なにかあるのかな?」
宿屋の主人「あぁ、もうじき旅の一座が芸を始める時間だよ」
ゴクウ「そういえば、こないだここへお使いに来たとき、それらしい格好の可愛い女の子がいたなぁ。ね、ジョウイ、見に行こうよ」
ジョウイ「え、でも、僕たちは帰るんだろ」
ゴクウ「そんなに慌てる必要ないって。先、行くよ」
楽しみ〜、あの子はどんな芸を見せてくれるのかなぁ。
広場はすでに人だかりができていた。背伸びして見てみると、僕の目当ての女の子はナイフでお手玉をしていた。その隣では火吹きの芸。それから、あっちの行列はカード占いかな。
ジョウイ「ゴクウ、待ってくれよ」
ゴクウ「ジョウイ、見ろよ、すごいよ」
ジョウイ「あぁ、本当に。僕たちと、それほど歳も違わないみたいだね」
アイリ「さて、そろそろ大トリと行こうかな」
女の子が、お手玉にしていたナイフを器用にまとめると、辺りをキョロキョロ見まわし始めた。
アイリ「決めた! あんたにしよう!」
女の子がビシッと指を突きつけると、ザッと人混みが割れた。
………もしかして、僕……?
【そうみたいね】
女の子は歩み寄ると、真っ直ぐに僕を見た。
アイリ「背格好もあたしと同じくらいだし、よく見りゃ可愛いじゃない。さ、こっち来て」
か、可愛いって………。あぁ、この童顔が恨めしい。
ジョウイ「あ、ちょっと、ゴクウ……!」
女の子の言葉にショックを受けた僕には、ジョウイの声も届かず、引っ張られるままについていった。
アイリ「良いかい、絶対に!動くんじゃないよ」
大木の前に立たされ、女の子に“絶対に”と強調されて、ようやく身の危険を感じる。
これって、もしかして……。
【ナイフ使いの芸っていったら、それしかないんじゃない?】
そんな、お母さん、お気楽に言わないで。
火吹きの芸をやっていた大きな男の子が、なにやら口上を始めている。そこでわかったのは、女の子の名前はアイリで、男の子の名前はボルガンというらしい。でもって、やっぱり僕はナイフ投げの的に指名されたということ。
盛大に溜め息を吐いた僕の隣に、カード占いをしていた女の人が近づいた。顔つきがアイリと似てるから、お姉さんなのかな。
リィナ「ごめんなさいね、急にお手伝いを頼んでしまって」
ゴクウ「い、いえ………」
艶然と微笑まれては、文句の一つも出てくるはずがない。
リィナ「絶対に動かないでね。あの子、いま、調子がいま一つだから………」
ゴクウ「………え!?」
リィナ「大丈夫。動かなければね。それに、もし当たっても、良いお薬を持ってるから心配しないで」
そ、そういう問題なのかぁ!?
S-6 燕北の峠
言われたとおりに、動かずにナイフ投げの的になった。アイリの腕は大したもので、見事百発百中。大成功だった。
そのまま成り行きで、キャロまで一緒に旅をすることになる。国境の峠までやってきた。
ミューズ兵「この峠にはモンスターが出る。またハイランドとの戦争も終わったばかりだ。市長アナベル様から通行の許可は出ていない」
ジョウイ「そんな……。でも、僕たちはどうしても、この峠を越えなくては………」
兵士に食い下がろうとしたジョウイを、リィナがやんわりと止めた。
リィナ「ここは私に任せて」
ジョウイ「……?」
アイリ「姉貴……また…………」
アイリが溜め息を吐いて、額に手を当てている。リィナ、どうする気なんだろう?
リィナ「隊長さん、ちょっとお話が………」
隊長「なんだ?」
リィナ「ちょっと、こちらへ………」
リィナは隊長と岩場の陰へ行ってしまう。
ゴクウ「………リィナは、なにをしてるんだい?」
アイリ「言えるか、そんなこと……!」
顔を真っ赤にしたアイリに怒られてしまった。
【それは、やっぱり、あーんなこととか、こーんなことなんじゃない?】
あーんなことや、こーんなことねぇ。
アイリ「……ゴクウ、なに考えてるのさ」
ゴクウ「え、いや、別に………」
アイリに睨まれて、僕は妄想を追い払う。
そんなことをしてるうちに、リィナと隊長が戻ってきた。
隊長「あ、あぁ、お前ら、通って良いぞ」
ジョウイ「え……?」
リィナ「隊長さんのご厚意に甘えるとしましょう」
リィナがアルカイックスマイルを浮かべて言った。
アイリとボルガンはいつものことだ、といった様子で歩き出し、僕とジョウイは狐に抓まれたような感じであとをついていった。
ジョウイ「………リィナさん、いったい、隊長となにを話したんですか?」
リィナ「大人の話よ」
ふふふ、と笑ってリィナは答えた。
女の人って、強い……。
S-7 キャロにて
僕たちはようやく、故郷のキャロの町へ着いた。アイリたちと別れるのは淋しかったけど、「また会いに来るよ」と言ってくれた言葉に我慢する。
そして、お尋ね者の僕たちは、やっぱり捕まってしまった。
その日のうちに処刑されそうになった僕たちを助けてくれたのは。
【フリック〜〜〜〜〜!!!】
お母さん、ビクトールさんも助けにきてくれたんだよ、って、聞いちゃいない。
ビクトール「さて、さっさとこんなところからズラかるぞ」
ゴクウ「うん!」
ジョウイ「ちょっと待って。ナナミがまだ捕まってるんだ。早く助けに行かないと」
あぁ、ジョウイ、君ってば、どうしてそんな余計なことを思い出すのかな。
【お姉ちゃんには冷たいのね】
帰ってきた早々のあの仕打ち。そう簡単には忘れられないね。
ゴクウ「早く逃げよう、ジョウイ」
ジョウイ「ゴ、ゴクウ、本気で言ってるのかい? ナナミは君のたった一人の家族じゃないか」
【それに、ムクムクも一緒に捕まってるわよ】
そうだった……。ナナミはきっと、絶対、平気だろうけど。
ゴクウ「冗談だよ、ジョウイ」
ジョウイ「…………」
ジョウイはちょっと疑わしそうな視線を僕に向けた。
ビクトールさんとフリックさんに頼んで、ナナミの救出に向かうとナナミが暴れていた………。
ジョウイ「…………」
ゴクウ「だから大丈夫だと思ったんだけどな」
呆然としているジョウイにそう言って、僕は指笛を吹いた。ナナミと一緒に暴れていたムクムクがそれに気づいて、僕の肩へ向かって滑空する。
ゴクウ「ムクムク、無事だったかい?」
ムクムク「ムーー!」
ナナミ「あれー!? ゴクウにジョウイ、こんなところでなにしてるの?」
ジョウイ「なにって……。一応、君を助けにきたんだけど」
ナナミ「偶然だねー、私もゴクウたちを助けに行こうと思ってたところなんだよ」
ジョウイ「そ、そう………」
みんな揃ったところで、傭兵隊の砦にお世話になることになった。
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