S-8 隊の名前
ルカの魔の手が、本格的に都市同盟に伸びてきた。傭兵隊の砦は、戦争の準備のために緊迫した雰囲気になっている。
僕たちは、お世話になったんだから少しでもお手伝いができれば、とツァイさんを迎えに行ったりした。
ビクトール「ありがとよ、ゴクウ、ジョウイ。お前たちはここまでで良い。早く支度をして此処から逃げるんだ」
そうだよね、子供の僕たちがここにいたって足手まといにしかならない。
ジョウイ「僕たちにも戦わせてください!」
僕は額を押さえたくなるのを賢明に堪えた。
ビクトール「だが、子供のお前たちに……」
まったくだ。……ジョウイがそう言うだろうことは、予測はできたけど。
【苦労してるわね、ゴクウ】
フリック「足手まといにならないか、俺が試してやろう」
ビクトール「オイオイ、フリック」
剣を抜いて、フリックさんは僕の前に立った。
…………え、僕??
ジョウイ「頑張れ、ゴクウ」
ゴクウ「…………」
仕方なくトンファーを構えて勝負を挑んだ。
手加減してもらって、なんとかフリックさんの眼鏡にかなったようだった。
ビクトール「まぁ、お前が言うんなら仕方ない。ゴクウ、ジョウイ、お前らにも隊を一つ任せる。名前、つけとけよ」
僕とジョウイは、部屋へ戻った。
ジョウイ「隊の名前はどうしようか、ゴクウ」
ゴクウ「そうだね……」
ジョウイ「ドラゴン隊、オレンジ隊、スカーレティシア隊、ゴクウ&ジョウイ隊………。なにが良いかな?」
【老婆心ながら忠告させてもらうけど、自分の名前は止めといたほうが良いと思うわ】
僕だってイヤだよ、そんな名札をつけるみたいなこと。でも、なにが良いかなぁ。ねぇ、お母さん。
【そうね……。幻影(ホアイン)隊てのはどう?】
幻影かぁ。良いね。
ゴクウ「幻影隊にしようよ、ジョウイ」
ジョウイ「う〜ん、幻影隊かぁ。よし、それにしよう。オレンジ隊でも良かったけど、それに決まりだ」
【何故に、オレンジ??】
僕に訊かないで。
でも、お母さん。隊の名前を中華風にするなら、僕の名前もそうすれば良かったのに。
【いま、そう思ってたところよ!!】
後悔先に立たずか。
【お黙り】
S-9 儀式
ルカの凄まじい攻撃に、傭兵隊は耐えられなかった。ミューズで落ち合うことを約束して、僕たちはバラバラに逃げた。
その途中、焼き尽くされたトトの村で、ピリカが僕たちを祠へ案内した。ルカのせいで口が利けなくなってしまったピリカは、祠でなにかを伝えたがった。
ジョウイ「ピリカ………」
そのとき、僕とジョウイを不思議な光が取り巻いた。
ゴクウ「え……!?」
ジョウイ「これは……?」
懐かしい幻を視た。
気がつくと、洞窟の中に移動していて、目の前に女の人が立っていた。
………胡散臭そうな………。
レックナート「“27の真の紋章”である“始まりの紋章”があなたたちを選びました。力が欲しければ進みなさい。必要なければ、元の場所へ帰しましょう」
ジョウイ「力………」
ジョウイはいまにも飛び出していきそうだった。こんな胡散臭い力に頼ったら、ルカの二の舞だというのに。
ゴクウ「僕には必要ないよ」
ジョウイ「ゴクウ……!」
ゴクウ「ジョウイ、君だけ行って来れば良い。僕は帰るよ」
レックナート「力は二つで一つ、一つが二つです」
怪しげなオバサンは、禅問答のようなことを口にした。
ゴクウ「僕はいらない。必要なければ、帰してくれるって言ったよね、オバサン」
ピキッと周りの空気が凍ったようだった。
【ゴクウ、強者……】
レックナート「この運命の荒波には、“始まりの紋章”なくしては乗り越えられません」
額に青筋を浮かべて、女の人は言った。
ゴクウ「オバサン、さっきと言ってることが違うんじゃないの」
ジョウイ「ゴクウ……! あ、あの、気にしないでください、進みますから」
ジョウイは無理矢理、僕の背中を押して左の道へ押しこんだ。
ゴクウ「ジョウイ、なにするんだよ。あんな胡散臭い女の言うことを真に受けるのかい!?」
ジョウイ「胡散臭いから言うことを聞いておかなきゃ、なにされるかわからないじゃないか」
【確かに、一理ある】
お母さん、感心してる場合!?
………でも、ジョウイの言う通りかも。
ゴクウ「わかった。進むも地獄、止まるも地獄ってやつだね」
ジョウイ「あはは………」
ジョウイは力無く笑った。僕は了解した、とジョウイの背中を軽く叩いた。
ゴクウ「大丈夫、なんとかなるよ。僕たち三人揃ってれば、無敵じゃないか」
ジョウイ「ゴクウ……。じゃあ、僕は右の道を行くよ」
ゴクウ「うん」
僕とジョウイはそれぞれの道を進み、“輝く盾の紋章”と“黒き刃の紋章”を宿した。
戻ってきた僕たちに、オバサンはやれやれといった様子で言う。
レックナート「さぁ、行きなさい、あなたたち自身の手で運命を紡ぐために」
ゴクウ「オバサンが帰してくれなきゃ、進めないだろう」
ピシッッ!!!
レックナート「あら、そうね、ごめんなさいね、気がつかなくって」
額の青筋を増やしてにーっこり笑うと、オバサンの右手が光った。
ジョウイ「うわぁ!」
光が消えると、もといた場所に僕たちは落下した。
ゴクウ「いったー………」
ナナミ「わわ、わ、二人とも、大丈夫?? なにがあったの?」
ゴクウ「得体の知れないオバサンに拉致されてたところ」
ナナミ「???」
あぁ、もう二度と会いたくない。
【そうもいかないと思うわよ、あの人には】
得体の知れない女の人は、お母さんだけで充分だ。
【ゴクウ!!】
冗談だって。
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