S-3 謁見の日
今日は、皇帝との謁見の日だ。俺もとうとう、親父と同じように軍人として、帝国で働くことになる。
滞りなく謁見をすませ、ムッとしながら明日からの上司への挨拶をすませ、屋敷へ帰る。
夕食までまだ時間があるので、俺はテッドの待つ2階へ駆け上がった。
テッド「ルキア! 帰ってきたな」
ルキア「ただいま、テッド」
テッド「なぁなぁ、どうだった、謁見のほうは?」
ルキア「楽勝さ」
俺の部屋で話をしようかと思ったが、明日からはもう自由に遊ぶ時間もなくなるので、先に街を散策することにした。もちろん、テッドも付き合ってくれる。
ミルイヒの屋敷をひやかし、みんなの家のシチューをつまみ食いしたり、鑑定士の家や道具屋を覗いてみたり。明日からはもうこんなことやってる暇もないだろうな、とちょっと寂しかったりもする。
最後にソニアの屋敷を訪ねた。あ、親父、やっぱりいた。
【…………ルキア、どうしてテオがこんなところにいるの?】
あれ、母さん、知らなかったっけ? ソニアのお母さんが亡くなってから、なんか親父と良い雰囲気なんだよ。再婚秒読み間近。
【あ、そう…………】
やっぱり、母さんはショックだったみたい。……?
【そっか、十五の歳の差はOKなんだ………。ふふふ……】
…………前言撤回。なんか変なこと考えてるよ、この人。
メイドが俺に、ソニアが親父の北方行きを聞いて落ちこんでいる、とそっと耳打ちする。
ソニアもやっぱり女なんだなぁ。
ルキア「やぁ、ソニア」
ソニア「ルキアか……」
ルキア「大丈夫? 親父、北へ行くことになっちゃったけど、すぐ戻ってくるよ」
ソニア「任務なのだから仕方ない。………ルキアこそ、テオ様としばらく会えなくなるんだ。いまのうちに、ちゃんと甘えておけ」
テオ「バカを言うな、ソニア」
ルキア「そうだよ、ソニア。俺も明日から帝国のために働くようになるんだぜ。親父に甘える役は、ソニアに任せるよ」
ソニア「ルキア……!」
耳まで真っ赤になっちゃって、ソニアは親父のこととなるとほんと可愛い。
テオ「ウォホン……。あぁ、ルキア、私はソニアに話があるから、お前たちは先に帰ってなさい」
【いったい、どんな話かしら……?】
母さん、そんな面白そうに言うなよ。
俺たちは先に帰ることにした。人の恋路は邪魔しないのが俺の主義。日記はちゃっかり読ませてもらったけど。
食事の時間にはまだかかりそうだった。台所へ行くと、グレミオが特製シチューを作っている。
グレミオ「もうちょっと待ってくださいね、坊ちゃん」
背中を向けたまま、グレミオは言った。俺とテッドは顔を見あわせる。
ルキア・テッド「せーの……!」
グレミオ「あ、あははは! や、止めてください、坊ちゃん、テッド君、く、くすぐったい、ですってば、あはは」
俺たちはグレミオが怒り出す前に台所を逃げ出した。
笑いながら廊下を歩いていると、ある部屋から大いびきが聞こえてきた。
テッド「この部屋は………」
ルキア「パーンだな」
パーンが起きないように、そっと部屋へ入る。たぶん、物音がしてもパーンは目を覚まさないだろうけど。
テッド「ルキア、パーンの日記があるぜ」
ルキア「その日なにを食べたのかっていうことしか書いてないよ」
テッド「なぁんだ。じゃあ、ここはやっぱり……」
にっこりと俺たちは顔を見あわせた。
ルキア・テッド「せーの……!」
俺たちはパーンが寝ている上へ、ダイブした。
パーン「うわあぁぁ!!!」
ルキア「もうすぐ夕食だよ、パーン」
部屋から逃げながら、飛び起きたパーンに言った。
パーン「坊ちゃん!!」
再び廊下を歩いていた俺たちは、打ちあわせたかのようにある部屋の前で立ち止まった。
テッド「今日はどうかな……?」
ルキア「………無理だと思うな………」
テッド「とりあえず、入ってみよう」
扉を開けようとドアノブに手を伸ばした。が、いきなり扉のほうから内側に開いて、俺たちは中へ転がりこんでしまった。
クレオ「…………。なにをしてるんですか? 坊ちゃん、テッド君」
転がった目の前に足があって、下から上へと視線を移動すると、目が笑ってないクレオの笑顔があった。
ルキア・テッド「あ、あははは…………。失礼しました!」
脱兎のごとく逃げ出す、とはまさにこのことだと思う。一目散に俺の部屋に駆けこんで、ようやく一息つけた。
テッド「やっぱり、クレオさんはガードが堅いな」
ルキア「そうだな。日記にまでカギがかけてあるくらいだし」
しばらくクレオの部屋には近づかないでおこう、と二人で約束した。
S-4 少年たち
宮仕え初日。五人そろって屋敷を出ると、上司のクレイズの部屋へ向かった。
クレイズの部屋は、近衛隊隊長という身分にしては派手すぎる。ミルイヒの突き抜けたセンスは、俺は決して嫌いじゃない。だが、この部屋のただ派手で豪華でありさえすれば良いという成金趣味には吐き気がする。当然、部屋の持ち主も嫌な奴だ。
開口一番のイヤミを右から左へ聞き流していると、ようやく初仕事の話になった。魔術師の島までのお使いだ。
クレイズ「魔術師の島が何処にあるのか言ってみろ」
ルキア「この地上の何処か」
クレイズは顔を青くしたり赤くしたり忙しい。俺の後ろで、グレミオがハラハラしてるのと、クレオが呆れているのと、パーンとテッドが必死で笑いを堪えているのがよくわかった。
ルキア「では、行ってきます」
クレイズが三文芝居の悪役のような脅しの台詞を言ってる途中で、俺はテッドたちを促して執務室を出ていった。
城の外へ出た途端、俺とテッド、パーンの三人は大笑いした。
テッド「ルキア、さっきのはサイコーだったぜ」
ルキア「クレイズのあの顔と言ったら」
いつまでたっても笑いが止まらない俺たちに、クレオが呆れて拳骨を振るった。
ルキア・テッド「ってぇ〜」
ガン!
最後のパーンの分はやけにイイ音がした。パーンは頭を抱えてうずくまり、声も出ない。
クレオ「坊ちゃん、任務は任務です。たとえ気に入らないことがあっても、きちんとやり遂げなければ、テオ様にも迷惑がかかるのですよ」
ルキア「わかってるよ、クレオ。魔術師の島の方向もちゃんとわかってるから。たぶん、竜騎士も聞かされてるだろうけどね」
クレオはまた呆れたように息を吐いた。なかなかいうことをきかない弟ですまない、姉さん。
家畜小屋へ行くと、竜がいた。カッコイイー!!
【竜騎士もいるでしょ。見習いみたいだけど】
同じ人間を見たってしょうがないだろ。異界の生物といわれている竜が目の前にいるんだぜ。そのことのほうが断然、凄いよ!
【…………。その人間同士がなんかもめてるみたいよ……?】
気がつくと、テッドと竜騎士見習いが喧嘩をしている。どれだけ大人なつもりか知らないけど、同じレベルで喧嘩してどうするんだよ、テッド。
ルキア「見習いでも竜に乗れるんだぜ。それだけで凄いじゃないか」
俺の言葉に、フッチと名乗った竜騎士見習いは機嫌を良くしたようだ。テッドは恨めしそうな目で俺を睨んでいる。悪かった、この埋めあわせはいつかな。
ルキア「早速、魔術師の島まで乗せてもらおうかな」
フッチ「任せとけ。ブラックならひとっ飛びだ」
竜の背の乗り心地は快適とはいかなかったが(総勢六人も乗ってればね)、いままで見たこともない高さからの流れる景色は最高だった。
魔術師の島へ着くと、フッチは入り口の海辺で待っているとのことだった。いかにも曰くありげな森だけど、仕方がない。パーティメンバーは五人だし、サラディ行きのような苦労はしないだろう。
青い建物が森に見え隠れしだした頃、唐突に森の木々が切れて広場へ出た。
【うわっ……あの子、綺麗………】
母さんの嬉々とした声に、俺は広場の奥へ目を凝らし、不覚にも茫然と見惚れてしまった。男にも『綺麗』という言葉が似合う奴がいるとは思わなかった。
が、見た目の良さと性格は別物だ!
ルック「我が“真なる風の紋章”よ……!」
いきなり魔法の詠唱。しかも、“27の真の紋章”!?
俺たちは有無を言わさず、召喚されたクレイドールと戦う羽目になった。………あの修行がこんなところで役に立つとは。
【良かったわね】
…………。
クレイドールをぶちのめすと、美少年は「さすが帝国の近衛隊の方々」としゃあしゃあとのたもうた。チクショー!
【まぁまぁ、美少年がやることだもん、大目に見なきゃ】
母さん! ………まったく。俺は性格が悪いのは、顔が良くてもキライだ。
【………ふぅん。そこが可愛く思えるときが来るかもしれないわよ……?】
……母さん、またなにか企んでるのか?
【まぁ、企むなんて、人聞きの悪い】
…………。もうイイです。
俺は溜め息を吐いて、占星師・レックナートが待つ魔術師の塔へ向かう。うんざりするほど長い階段を昇りきると、レックナートが待っていた。
“星見の結果”を受け取ると、「また会えるでしょう」というお願いをされてしまった。
【もしかして、美少年キラー?】
母さんと同じことを考えてしまったなんて不覚。
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