夕食の時間も過ぎれば、酒場はさらに賑やかさを増してくる。逆に静かになるレストランから、頼んでおいた小料理や余り物が配達される時間帯でもあった。
「おや、今日はあんたが届けてくれたのかい?」
料理を満載した箱をからくり丸に載せて、酒場の厨房にやってきたのはメグだった。
「うん、たまにはお手伝い」
「ありがと。からくり丸もご苦労さん」
「ドウイタシマシテ」
料理を箱から取り出しているメグを見て、レオナは首を傾げた。
「メグ、その目、どうしたのさ?」
よく見ると充血して少し腫れている。
「あ……えっと……」
メグは気まずそうに目許を擦った。
「ソンナコトヲシタラ、余計ニ赤クナリマスヨ」
「わ、わかってるもん」
頬を膨らませて、メグはからくり丸を睨みつけた。
「なにかあったのかい?」
「大丈夫、なんでもないから……」
「一昨日カラ泣キ詰メデス」
気にしないでくれと手を振るメグの言葉に、からくり丸の台詞が被さった。
「余計なこと、言わないの!」
ガンッとからくり丸を叩いて、メグは痛そうに拳をさする。
「メグ……」
気遣わしげなレオナに、メグは少しだけ笑顔を返す。
「ほんと、大丈夫。……目許もね、だいぶ腫れがひいたし、なんでも良いから身体を動かして気を紛らわそうとしてみたわけで……」
「………もしかして、ルキアと喧嘩したのってあんたかい?」
「レオナさん、ルキアに会ったの!? 何処にいるか知ってる?」
期待に満ちた瞳で両腕をつかまれて、レオナは決まり悪げに視線を泳がせた。
「や、あの、見かけたのは昼間だから………」
「そっか………」
らしくなく、盛大に溜め息を吐くメグ。
「聞いて欲しいことがあるのに、話もさせてくれないんだよ………。……私、嫌われちゃったのかなぁ…………」
「いったい、なにがあったの?」
「…………。ごめん、ルキアの個人的なことに関係してくるから、私からは言えないや」
ついぞ見せたこともない真剣な表情に、レオナもそれ以上の追求ができなくなってしまう。
「……たぶん、ジーンと一緒じゃないかな。約束してたから」
「ジーンさんのとこか………。ね、ルキア、どんな様子だった?」
「ずいぶん、鬱ぎこんでたよ……。………そういえば、なんか不思議なことをしてたっけ。右手に刺草を巻いて、ジーンに呪(まじな)いをかけてもらってた」
メグは目を見開いた。
「右手……。ルキアの、右手……?」
「あぁ」
突然、へなへなとメグはすわりこんでしまった。
「ちょっと、大丈夫かい?」
レオナは慌ててメグの身体を支えた。
「……私、嫌われてなかった……。嫌われたわけじゃなかったんだよ、からくり丸!」
「ダカラ、何度モソウ言ッタジャナイデスカ」
からくり丸がなにを当たり前のことを、と言う。
「だって、だって……!」
「ソシテ、るきあガ口ヲキイテクレナイコトニハ、変ワリアリマセン」
「う……」
「ココハ搦メ手デ攻メタホウガ良イノデハ?」
「……それって、なんか卑怯な気がする……」
不服そうにメグは眉間に皺を寄せる。
「恋トハ、ソウイウモノデス」
断言したからくり丸に、メグは唖然とし、レオナはたまらず吹き出した。
「あはは、あんた、良いこと言うね」
「ソレホドデモ」
すまして答えるからくり丸に、メグは呆れたように溜め息を吐いた。
「ねぇ、メグ、私にはなんのことだかさっぱりわからないけれど、からくり丸の言うことには一理あるよ。ルキアみたいな男には、正攻法だけじゃあダメさ」
「…………レオナさんが言うと、説得力ある〜」
「それは、褒め言葉ととっておいて良いんだろうね……?」
「もちろん!」
メグはいつもの笑顔を取り戻して、元気よく立ち上がった。
「ありがと、レオナさん。なんか、元気出てきた」
レオナも立ち上がってにこりと笑う。
「そいつは良かった」
「よぉし、負けるもんか。行くよ、からくり丸。作戦を考えなくちゃ」
「ハイハイ」
「『はい』は一回!」
「………ハイ」
お邪魔様〜、とメグはからくり丸を連れて厨房を出ていった。
元気いっぱいの少女の背中を見送って、レオナはふと思う。
少女は、永遠を信じているだろうか。

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