ようやく空が白み始めた頃、梁山城に残っていた全員が広間に集まった。腕や頭に四色のいずれかの布を巻き、同じ色の者同士が固まっている。
オレンジ色はわずかに四人。黒色は五十人。残りは青色か白色を巻き、両方を腕に巻いている女性陣もそこそこ見られた。
壇上に白い布を腕に巻いたアップルが立った。その両脇を少し後ろに下がって、青い布を巻いたフィッチャーと黒い布を巻いたシーナが陣取る。
アップルは、いまこの城に向かって王国軍が進軍中であること、ゴクウの部隊とハウザーの部隊に至急、戻ってくるようにすでに伝令が行っていること、だが、この城からも王国軍を討って出ること、そのための作戦がすでに準備済みであること、を順を追って説明していった。
「作戦についての詳細は、それぞれの旗長より説明があります。白旗と蒼旗を兼任する人はまず私からの話を聞いてから、蒼旗のフィッチャーさんのところへ手伝いに行ってください」
フィッチャーは早速、蒼旗をまとめると広間を出て行った。投石機の設置に弩弓の準備。やることは山ほどある。橙旗は、カスミ以下、忍びの者たちは偵察に向かい、シエラは時間まで寝る、と行ってしまった。
黒旗の前に立ったシーナは、ルキアの肩に腕をまわして簡単に言う。
「こいつの前には出ないように。あと深追いも厳禁。俺たちの役目はヒットアンドアウェイであくまでも追っ払うことだから、それは忘れないでくれよ。実戦では、こいつの指示に従ってくれ」
それだけ告げて、黒旗も準備が済んだ者から蒼旗の手伝いへ向かうことになった。
あまりの簡潔さに胡乱げにルキアが見やれば、選抜結果を伝えた際にすでに指示済みなんだ、とシーナは答える。軽く息を吐いて了承し、ルキアは刀をもらってくる、と皆とは別方向へ向かった。
広間には白旗のみが残り、空いたスペースを埋めるように中央に集まった。この城に残っていた半数以上を占める。アップルは壇上に続く階段の下の段まで下りてきた。此処ならみんなの顔を見ながらきちんと話ができる。
「白旗の皆さんには、まず、このような事態になってしまったことをお詫びします。軍師として、本拠地が危機にさらされるような事態になることを防げずに、申し訳ありません」
アップルは深く頭を下げた。
「なにが起こるかわからないのが戦争なんだ。あんまり、気にしなさんな」
そう声をかけたのはレオナである。それに、ありがとうと軽く微笑んで、再びアップルは話し始める。
「救護班には蒼旗にも志願してくださった方々にお願いしていますので、それ以外の方は此処にいてください。もしかしたら、物資の運搬や炊き出し等お願いすることもあるかも知れませんが。そして、もし………万が一、黒旗・蒼旗の防衛線を破られた場合には、この城を放棄してグリンヒル方面へと脱出します。防衛線からこの城までは、まだかなりの距離があります。時間は充分にありますので、落ち着いて私の指示に従ってください」
一度、言葉を切って彷徨わせた視線に、メグの視線がぶつかる。メグは力強く頷いた。
「最後に、白旗(非戦闘員)の皆さんに私が下す命令はただ一つです」
グッと両手を組み、顔を上げてアップルは言う。
「生きてください。……これは願いでも、感傷でも、祈りでもなく、命令です。たとえこの世の地獄を見ようとも、自ら死を選ぶことは許しません」
三年前、戦争のたびにルキアは白旗に向かって、豪然とも見える態度でそう告げてきた。
『生きろ。これは、願いでも感傷でも祈りでもない。絶対命令だ。たとえこの世の地獄を見ようとも、自ら死を選ぶことは許さない。生き続けろ』
いま、同じ言葉を告げながら、どんな気持ちだったのだろうと思う。
「生きてください」
そして、アップルはもう一度、頭を下げた。メグがアップルの前に立ち、その肩をポンポンと叩いた。
「頑張ろう」
顔を上げたアップルににこりと笑って手を振ると、メグは広間を出て行った。
「頑張ろうね、アップル」
テンガアールは抱きしめて、背中を優しく叩いていった。そうして、みんなが優しく声をかけ、励ますように背中や肩を叩いていき、広間は静かになった。
「…………」
大きく息を吐き出すと、視界がなんだかぼやけてきた。
「……懐かしい台詞だったな」
入り口から声が聞こえて、アップルは慌てて目許を拭って振り向いた。
「メグから出された条件なの。私がこの言葉を言うことが……」
「そっか……」
広間に入ってきたシーナは、アップルの頭を撫でた。
「な、なにを……!」
わずかに頬を染めて、アップルは抗議の声を上げる。
「ん、よく頑張ったって」
「別に、あなたに褒めてもらっても………」
「良いじゃん、褒められても損するわけじゃなし。……それに、あんなキツイ言葉、ちょっとやそっとじゃ言えないぜ……?」
「…………そうね。………こんなに、胸に堪える言葉、あの人は言い続けてきたのね………」
胸許を押さえて、アップルはその痛みに耐える。
「………まだ、偵察が戻ってくるまで少し時間あるから、いまのうちに泣いておけば? こんなに頼りになる胸板もあることだし」
おどけて両手を広げるシーナに、アップルは笑った。
「なに言ってるの」
「え〜、真面目に言ってるのに」
「いまはまだ泣くときじゃないわ」
ほんの少し、シーナの心遣いに感謝した。そう、まだ始まってもいないのだ。
完全に日が昇りきった頃、偵察に出ていたカスミたちが戻ってきた。広間にはフィッチャー、シエラ、ルキアもいた。
「陣の設営中に王国軍から、降伏勧告の使者がありました」
速攻で追い返したと事後承諾を取るフィッチャーに、その場にいた全員が苦笑を漏らした。
「予定の場所に、投石機や柵の設置は終わりました。シエラさんに飛ばしてもらう物は印をつけて、各投石機に一袋ずつ。時間をずらして投げるように指示済みです」
気を取り直して、蒼旗の進捗状況の報告をする。
「王国軍の様子はどうでしたか?」
アップルの問いにカスミが答えた。
「クスクスの街に上陸したのは、第3軍団と第4軍団です。シード・クルガンの両将軍の姿も確認しました。あちらも日の出前には攻城機の設営が始まったようで、もうまもなく進軍を開始するでしょう」
「ハウザーさんからの報告にあった、王国軍が早々に退却したというのは、このためだったのね………」
つい先ほど届いた二つの伝令。ゴクウたちは精鋭部隊でグリンヒル市内に潜入して中から市門を開ける作戦に出ること、ハウザーたちはすでに梁山城へ向けて部隊を移動させている旨が記されていた。
「あれは………」
「サスケ?」
鷲の眼になったままのサスケがなにかを見つけたように呟いたのを、カスミが問い質す。
「ハルモニアの魔法部隊が見える。1小隊規模」
ルキアが納得したように口の端を上げた。
「なるほど、ハルモニアに軍資金を出させたのか」
「すでに援軍を出してたのに、また出すか?」
率直にシーナが疑問を出すと、ルキアは即答した。
「その援軍がなっんの役にも立たなかっただろ。レオンならその辺いろいろ突いて、船やら攻城機やら出させるくらいわけないさ」
「納得……」
「カスミ、モンド。二人に命令追加」
ルキアの声音に、呼ばれた二人は姿勢を正した。
「ハルモニアの魔法部隊は一人も生きて帰すな」
「承知」
二人は声をそろえて頭を垂れる。手袋も包帯もしていないルキアの右手を見咎めて、シエラは手を差し出した。
「ルキア、妖刀を貸しや」
「良いけど……?」
妖刀を受け取って、シエラは左手をかざす。その甲には“月の紋章”が青く浮かび上がっていた。青い光は妖刀全体を包み、やがて刀に沈みこむようにして消えた。
「これで多少の目眩ましにはなるであろ。ハルモニアの人間を一人か二人取り逃がしたところで、おんしの紋章のことは話題に上るまいよ」
「念には念をってね。でも、ありがと。助かる」
妖刀を再び背に負って、ルキアはにこりと笑った。
「これで、おんしからは二樽目かの」
「はいはい……」
「戯れ言はさておき、本気でそれを使う気かえ?」
「もちろん。でないと、2個大隊も相手にできない」
シエラは半眼でルキアを睨み、カスミは軽く目を伏せた。
「王国軍が進軍を開始した!」
サスケの声に、その場に緊張が走る。
「行くぞ」
ルキアはシーナに声をかけて出て行く。橙旗四人の姿はすでにない。
「フィッチャーさん、白旗にすぐに此処へ集まるように伝令を」
「わかってます。此処は頼みますよ、アップルさん」
「はい。フィッチャーさん、ご武運を」
一人残ったアップルは、胸の前できつく手を組んだ。
(どうか、みんな、無事で……!)
梁山城防衛戦が始まる。
防衛柵に黒旗が到着した。蒼旗の一部は待機済み。弩弓にはすでに矢がつがえられ、投石機にも石と例の物が設置済みで、いつでも放てる状態になっていた。
「投石機のタイミングを見誤るなよ、アマダ」
「任せときな、ルキアさん」
一通り馬で確認にまわったルキアがアマダに声をかけると、アマダは力強く頷いて胸を叩いた。
城に残っていた蒼旗が到着する頃、地平に土煙が見え始める。
「来たか………」
ルキアは馬を操って、防衛柵の外へ出た。シーナもその隣に馬を並べる。
「報告します」
ルキアの前に、鷲の目のままのサスケが膝をついていた。
「王国軍は第3軍団が右翼、第4軍団が左翼の鶴翼の陣にて進軍中。攻城機およびハルモニアの魔法部隊は最後尾にいます」
「ま、セオリー通りだよなぁ」
シーナが肩をすくめる。
「サスケ、偵察はもう良い。それ、かなり疲れるだろ。後ろの蒼旗のところで少し休むか、橙旗のフォローにまわれ」
ルキアに言われて、サスケは一瞬脱力したように顔を伏せた。すぐに顔を上げたときには、眼は元に戻っていた。
「橙旗に合流します」
軽く礼を取り、サスケの姿はかき消えた。ルキアは湖へ目を向ける。
平原とはいえ、身を潜ませるのに格好の茂みや丘はある。湖岸側となれば、切り立つ崖と岩場がほとんどで、いま橙旗は此処よりもう少し先の湖岸の岩場にいる。
地平に見えた土煙は騎馬隊のたてる物だとわかるようになってきた。ルキアはさらに数歩前へ進み、背中の妖刀を抜いた。この太刀は長さはあるが、何故だか通常の太刀よりも軽い。ルキアは右手だけで振るうことができる。
シーナの全身が総毛立った。
(あの刀………マジやべぇ……!)
おののく馬をなんとか御して、カタカタと鳴る“麒麟児”を抑えこむ。
「シーナ、まだ序の口だ。抑え切れそうになければ、後ろへ戻れ」
チラリと後ろに視線をやってルキアは言う。
「……舐めんな」
シーナは左手で“麒麟児”の柄をグッと握り、口の端を上げた。伊達や酔狂で解放軍元帥の黒旗(親衛隊)にいたわけでもないし、この三年間を無為に過ごしてきたわけでもない。そんなシーナの表情を見て、ルキアも口の端を上げた。
「後悔するなよ」
「誰が……!」
ルキアは再び前を向く。シーナからはひとまず死角になっている右手に握りしめた妖刀の柄から、ミシミシと嫌な音が聞こえていた。
柄から真っ黒な稲光のような光が零れだし、右手を絡め取り突き刺した。
「クッ……」
「ルキア!?」
上体を折ったルキア。突然、漂った血の臭い。近寄ろうとしたシーナをルキアは左手を挙げて止めた。
「来るな……! 序の口だって言ったろ」
シーナは歯噛みして耐える。
痛みに慣れたところで、ルキアは身体を起こした。柄から鍔を滴り、血に濡れた刀身は赤黒く変化した。左手で手綱を握り直し、ルキアは迫り来る騎馬団に向け妖刀を構える。
「我、壱之鍵を召喚す。応えよ、“リデンプション”」
右手の甲から浮かび上がった“生と死を司る紋章”が脈動した。それはやがて、フードを目深にかぶり大鎌を両手に持った人の形を取る。
王国軍を視認できる岩場の影で、シエラは左手を押さえこんだ。
「シエラ様?」
いつもは首に巻いているスカーフで眼から下をすっぽりと隠したカスミが駆けよると、シエラは軽く首を振って答える。
「大事ない……。あ奴が、あれほどまでに“生死を統べる者”を使いこなせるとは思わなんだだけじゃ………」
「ルキア様は、“魂の鏡像”ですから………」
「…………そうか………」
シエラは盛大に溜め息を吐いた。
ハウザー率いる街道防衛部隊は、夜通し走りづめてようやくトゥーリバーで馬を替えた。
「ビクトール、急げ!」
新しい馬に鞍をつけ替えているビクトールに、星辰剣が驚愕に満ちた声で言った。
「な、急になんだよ、星辰剣……」
「梁山城が危険だ」
「だから、休む間もなく走ってきてるんじゃないか」
「あ奴が封印を解かれている……!」
「誰だよ、奴って……?」
「“生死を統べる者”だ。……それ以上は駄目だ、一帯が死の原になる!」
最後の言葉は、もうビクトールに向けられたものではなかった。星辰剣の様子に、これは王国軍がどうとか言うレベルではない、とビクトールも気がつく。鞍をつけ終わると他を待たずに馬に乗る。
「フリック、悪ぃ、俺は先に行く! 後は頼んだ!!」
「ビクトール!?」
一人、ビクトールはトゥーリバーを駆け抜けた。
グリンヒル市内へ向かう森の抜け道の途中で、ルシアたちカラヤ族と相対していたルックは届いた紋章の波動に、思わず身体ごと梁山城の方角へ振り向いてしまった。その隙を見逃さず、ルシアが鞭を振るう。
「余所見をしてる場合じゃないぞ!」
ゲオルグが怒鳴りながら、間に入って鞭を弾く。
「………ルキア……」
だが、ルックは驚愕からまだ覚めやらない。ナナミとメイザースが攻撃を仕掛け、ルシアの注意を逸らす。
「ルック、いまの、なに!?」
ゴクウにもその波動は届いていた。ルックの肩をつかんで、意識をこちらへ向けさせる。
「“ソウルイーター”が………」
ようやく意識を引き戻したが、ルックはやや茫然と答えた。
「ルック、気持ちはわからないでもないけど、いまは目の前のことに集中して」
ルックは唇をかんで頷いた。
梁山城の危機とカスミが先に帰ったことを聞いたのは、朝になってからだった。転移魔法で戻ることは可能だったが、ルックは残ることを選んだ。自分には目的があったから。そのためには、此処でゴクウに負けてもらっても困るのだ。
(ルキア……!)
ジレンマをぶつけるように、ルックは“旋風の紋章”の力を解放した。
平原を駆ける王国軍の姿が徐々に大きくなる。弩弓の射程には、まだわずかに遠い。
「薙ぎ払え!」
ルキアは妖刀を左から右へと薙ぎ払った。妖刀からもれ出た黒い稲光をまとわりつかせた死神が、大鎌を振りかぶりながら王国軍へ向かって奔る。
遠目にも血飛沫が舞ったのが見えた。
「………わらわがオブラートに包るんでやったに、無駄であったか……」
風下にいるシエラは、届いた血の臭いに露骨に顔をしかめた。カスミは顔色一つ変えない。
「シエラ様、そろそろ私は参ります」
「あぁ。ハルモニアの件はわらわも気にかけておこう」
「ありがとうございます」
そして、カスミの姿はかき消えた。
“リデンプション”はいつの間にかルキアの右肩に腰を下ろしていた。
王国軍は最初こそ動揺して進軍が止まったが、体勢を立て直すとさらに速度を上げて迫ってきた。盾が日の光を反射した。
「射程に入るぞ」
「あぁ」
シーナの言葉に頷いて、ルキアは妖刀を高々と掲げる。
「撃てっ!!」
右手が振り下ろされると同時に、雨のように矢が飛び、投石機から唸りを上げて大石が飛んでいった。“リデンプション”も再び奔る。
盾を上にかざした者は矢からは身を守れたが、大鎌と妖刀の剣圧に吹き飛び、前に構えた者は剣圧にかろうじて耐えられても大量に降る矢に射し貫かれる。投石機から飛んだ大石は、さらに陣の奥深くへ落ちた。
「さて、わらわも仕事をするか………」
雨霰のような矢の中から、シエラは目当ての袋に焦点をあわせた。深紅の瞳が光を帯びる。大の男がかろうじて持ち上げられるほどの袋を、シエラは念動力で陣の奥深くまで誘導して落とした。袋に向かってキラリとなにかがかすめたのが見えた。忍びの者の誰かが、袋にわざと傷を入れたのだ。運のなかった誰かを巻き添えにして袋は落ちると、その中味をまき散らす。
「小麦粉!?」
王国軍から半ば拍子抜けした声が上がる。
「使える物はなんでもってことか?」
朦々と舞い上がる粉がなんなのか、部下から報告を受けたシードは、隣のクルガンを見た。
「だろうな……。数は圧倒的にこちらが上だ。第二射がくる前に魔法部隊は攻撃を。騎馬隊は体勢を立て直せ!」
シードに頷いてから、クルガンは部下に指示を飛ばす。
だが、魔法部隊の攻撃は先に貼り巡らされていた“守りの天蓋”により相殺され、第二射が放たれた。二つ目の小麦粉の袋が、攻城機を一つ巻き添えにして落ちる。矢は魔法部隊が起こした風で大半を無効化できたが、騎馬隊を紙のように切り裂く黒い風は、こちらも貼り巡らした“守りの天蓋”でも防げなかった。
二度目の粉塵が舞った頃、シエラとは別の場所に潜んでいたモンドは印を結びだした。
「モンド、少し早くないか?」
隣でまわりを警戒しているサスケが訊いた。
「この術はちと時間がかかる。三つ目が落ちるのと同時に発動させるには、このタイミングで良い」
様々な印を決められた順番に次々と結ぶ。
「来た、三つ目!」
雨霰と飛んできた矢は、再び巻き上がる風に勢いを失速させる。だが、投石機が飛ばした石や三つ目の袋の進路までは変えることができない。そして、小麦粉の入った袋は最早どう見ても不自然にその飛距離を伸ばしている。サスケは手のひらに収まる小さな手裏剣を構えると、狙いを定めて投げた。手裏剣は狙い通りに、袋に小さな穴を開ける。袋が魔法部隊の逃げる方向へ落ちたところで、モンドの術が完成した。
「土遁、鳴動!」
大地に掌底を放つと、手のひらを中心に黒い文字のような紋様が放射状に広がる。そして、王国軍の最後尾、攻城機や魔法部隊がいる場所、小麦粉の入った袋が三つ落ちた場所で。
突き上げるように大地が揺れた。
攻城機の一つ。天を突くかのように組まれた木の上で、カスミはこの地震のような揺れが起こるのを待っていた。大地が揺らされて、小麦粉が再び朦々と舞い上がる。カスミは横に広げた両手で指を鳴らした。
「紅蓮花、乱舞(ぐれんげ、らんぶ)」
劫火を巻き上げ、大爆発が起こった。
強烈な大地の揺れと、燃え上がる紅蓮の炎。かろうじて逃げのびた誰かが叫んだ。
「後方より、魔法攻撃! “焦土”と思われます!!」
突然、後ろから上がった火柱に、シードとクルガンは揃って馬首を返す。
「“静かなる湖”!」
「……! 待て、シード……!」
右手を掲げたシードに、なにかに気づいたクルガンが制止しかけたが、術の発動が早かった。
王国軍を包む青い球体を確認して、ルキアは口の端を上げた。
「かかった……!」
後ろを向いて、妖刀を再び掲げる。
「黒旗、突撃!!」
「王国軍を蹴散らせ!」
「おぉー!!!」
ルキアを先頭に騎馬隊が攻勢に出た。
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